深まる関係−7
夏休みシーズンになり、夏も盛りを迎えた。相変わらず燈矢は不機嫌そうにしており、たまにSNSでプチ炎上しているが、世間もそろそろ燈矢の気質に慣れたようで、それでも燈矢の格好良さや強さを指示するファンと、無愛想で態度が悪いことを批判する者とに真っ二つだ。炎司も同じようなものだが、イケメンさで支持する女性層がいないことが違いだろう。
そのため、燈矢のファンは圧倒的に若い女性が多く、アイドルめいた人気もあることから、そこもアンチを活性化する要因となっている。
また、たまにいるのだが、燈矢と応利の組み合わせに悶える層もいる。あまりそこには触れないようにしていた。
当の本人はすべてに対してどこ吹く風だが。
応利も、燈矢の態度の悪さを注意し、炎司との口喧嘩を仲裁する日々に慣れたころ、冬美から燈矢のときを彷彿とさせる頼みごとをされた。
「ごめんね応利君、三者面談なんか頼んで」
「燈矢のときもやったし問題ない」
そう、高校3年夏の三者面談である。
受験前の最も重要なものということで、学校側から保護者の参加を強く要請されていた。
ちなみに、燈矢の三者面談は中学3年のときのもので、あれは推薦入試を受けるために行われたようなものだ。冬美の中学3年のときは、地元の高校に進学することが決まっていたため、特に強く要請されなかった。やはり家族でもない応利が参加することは学校としてもなるべく避けたかったのだろう。
高校ではそもそも保護者の面談はない学校も多いと聞くが、この学校はあるらしい。
「珍しいよな、高校でもあるの」
「ほんとだよー…」
冬美はそうぼやきつつ、面談の場となっている教室の扉を開ける。すぐに担任の女性教師が椅子から立ち上がって出迎えた。
椅子を机の上に乗せてまとめて後方に並べてある中、前方に3席だけが向かい合うように並んでいた。
「圧気さん、本日はお越しいただいてしまいありがとうございます。お忙しいところ申し訳ありません」
「いえ、大事な時期ですので」
大人の挨拶にも慣れたもので、2席並んでいる椅子に腰を下ろす。
この手の面談でやることは変わらない。学校での様子を聞いて、成績を確認して、進路について話す。それだけのことだ。
燈矢はクラスに馴染もうとしなかったため教師の心配事も多かったが、その点、冬美はとても優等生だ。
「轟さんはとても優秀で、成績はもちろん、クラスの行事でも積極的に取り組んでいます。大学も推薦入試枠が可能なところでしたが、本人の希望で一般入試になっています」
「あれ、そうなのか。この成績ならそこそこの大学行けるだろ」
「うーん、でも一番行きたいところは指定校推薦の枠がないから」
「そっか、ならいい」
きちんと理由があるなら問題ない。教師も同じ考えのようで、そこから進路の話になる。
「轟さんは教員志望ということで、教育学部のある大学を受けたいそうです。そうよね、轟さん」
「はい。私ね、学校の先生になりたいんだ」
「すごいな、そうなのか。めちゃくちゃ向いてると思うぞ」
冬美の将来の目標を聞いたのは初めてだ。応利に相談しなかったということは、迷いなくこの道を自分の中で決められたということである。それだけ強い意志があるなら何も言うことはない。
ただ、受験を希望する大学のリストを見て、一応添えておく。
「教育学部に拘らなくても、単位は少し大変だろうけど、他の学部で教員過程の単位を取るのも手だと思う。専門がある教師は強いしな。視野が広がるし、教育学部では学べないことで応用が利くものもあるんじゃねぇかな」
「そっか…確かにそうだね。でも単位が大変そう…」
「圧気さんのおっしゃることも正しいです。轟さん、まだ時間はあるから、志望校の選択肢を広げてみましょうか」
「そうですね、もう少しいろいろ見てみます」
第二志望や第三志望でもいいし、教育学部がある大学の他の学部を第二志望とする、というのも手だろう。そういった具体的な話を少ししてから、時間となる。
やはりというべきか、まったく拗れることもなく、スムーズに面談は終了した。
二人で昇降口に向かう廊下で、冬美は改めて礼を述べる。
「今日はありがとう、応利君。また志望校の相談していい?」
「おー。勉強の方も分からないことあれば聞いていい。燈矢は教えるの下手だしな」
「ふふ、そうだね」
そう話して昇降口にやってくると、ちょうど女子テニス部が屋外から戻ってきたところだった。スポーツウェアにラケットを持った女子たちが楽しそうに話しながら昇降口に入ってきて、そして応利を見つけた瞬間、一斉に目を丸くしてから悲鳴を上げる。
「えーッ!?パスカルがいる?!」
「えっ、嘘なんで?!」
「やばーッ!待ってめっちゃ汗かいてる!!」
女子たちは口々に叫びながら応利に駆け寄った。圧のすごさに思わずたじろぐ。
「なんでウチいるんですか!?」
「三者面談で、エンデヴァーさんの代わりに保護者で来てるんだ」
「マジ!?いいなー、パスカルが来てくれるならいくらでも面談するのに」
きゃっきゃと楽しそうにはしゃいでおり、冬美の同級生は冬美に「いいなー」と絡んでいる。
「えっ、てかトーヤとは実際どうなんですか!?」
「マジそれ!え、付き合ってる!?付き合っててほしい!!」
「いやただのSKだっつの…」
「「「え〜〜???」」」
残念そうにする女子たちには申し訳ないが、応利はここで真実を明かすわけにもいかないため、当たり障りないことだけ言っておく。
適当にいなしてから、応利は冬美とともに帰路についた。真夏の日差しの下に出てほっとする日が来るとは。
「やっぱ女子高生ってすげぇな…」
「あはは、みんなパスカルのこと推してるからね」
慕われるのは嬉しいが、あの若いエネルギーには勝てない。ポジティブなものである分、無下にもできない。
学校から少し離れてしまえば、夏の平日ということで人通りも減り、閑静な住宅街の静寂に包まれる。
そこに、冬美が尋ねてきた。
「で、実際燈矢兄とはどうなの?」
「あー…実は1月から付き合ってる」
「あ、燈矢兄の誕生日から?やっぱり。そうだろうなって夏と話してた」
「やっぱ気づくか」
冬美も夏雄も人のことをよく見ているため、気づかないわけがなかった。改まって報告するのも、と思っていたが、これはこれで不誠実な気もしてくる。
「つか、居候してる男と兄貴が付き合ってるって嫌じゃねぇの」
そもそも、応利が居候するようになって5年以上になるとはいえ家族ではないのだ、応利と燈矢が付き合っているということ自体への嫌悪感などはないのだろうか。今更そんなことを思ったが、冬美は笑って首を横に振る。
「まさか!幸せになってほしい二人が幸せになるんだから、嬉しいよ」
心の底からの言葉に、応利はホッとするのと同時に、温かい気持ちになる。冬美も、きっと夏雄も、成長して応利たちの幸せを願ってくれるようになった。
「…そっか。ありがとな。まぁでも、さすがにエンデヴァーさんには報告しづらいな」
「それはそうだね、様子見た方がいいと思う」
それについては冬美も同意見のようだ。いつかは言った方がいいと分かっているが、今はまだ、炎司もヒーローになった燈矢との付き合い方を模索しているところだ。あまりノイズにならないでやりたかった。