深まる関係−8
ヒーローに夏休みというものはないのだが、まとまった季節休のようなものも取得できないことはない。多くのヒーローは所帯を持たず、まとまった休みを取る必要がないため、分散していることがほとんどだ。そもそも、SKは雇用であることが多いものの、ヒーローは基本的に個人事業主であるため、労働者の権利としての法定休日のようなものがないのだ。
応利もそういう季節ごとの長い休暇、というものは意識していないが、燈矢はこの夏、免許を取るために免許合宿に参加し、2週間ほど不在にした。まだ駆け出しということもあり、SKとしてはバーニンなどほかの炎系のヒーローだけで事足りるため、応利と違って長期で不在にしても大きな影響がない段階だ。
有名人ということで最初こそ絡まれたようだったが、無視し続けたことで三日目には誰からも話しかけられなくなった、とチャットで教えてくれた。ある意味で生きやすそうだ。
そうして免許を無事に取得して帰ってきた燈矢は、早速、練習のために応利を乗せて夜のドライブに誘ってきた。
燈矢が運転できるようなってくれれば非常にありがたいため、応利は断るはずもなく、二つ返事で頷いて早速車に乗り込んだ。
いつもと違い助手席に座り、燈矢が運転席に座る。
初心者らしく、座席の位置やミラーの位置など細かく確認しているのが微笑ましい。
「それにしても、俺が免許とったばかりのときは、お前断ったよな」
「断ってはねェだろ。応利が察して乗せなかっただけで」
「あれで乗りたいって言ってくれてたら乗せてた。あんときは買い物に連れてっても邪魔なだけだから、わざわざ乗せるも必要もないっていうんで許してやったんだろ」
応利が免許をとってすぐ、買い物に行く際に燈矢を誘ったが、燈矢は乗りたい気持ちと不安な気持ちがせめぎ合う複雑な表情をしていたため、応利が冗談だと言って乗せなかった。あのとき、燈矢は露骨に安心したため、今でも恨みがましく思っている。
「チッ…昔の話だろ」
「死ぬまで不満言ってやる」
「死ぬまでそばにいてくれンだ?」
「お前が死ぬまで纏わりついてくるだろ、どうせ」
軽い会話がぽんぽんと続く。燈矢はこんな些細な言葉でも嬉しかったようで、エンジンをかけながらニヤリとする。
「おう、死ぬときは一緒だな」
「それがこのあとすぐじゃないことを祈るよ」
「安心しろ、成績トップだった」
そう言って燈矢は車を発進させる。迷いなく門を出て道路に出ると、自然な加速と減速で進んでいく。
さすがだな、と応利は舌を巻いた。
「…やっぱお前、だいたいのことはセンスあるよな。特に運動関係」
「まァな」
車の運転はわりと運動神経に左右されるところがある。体の動きに天性の才能がある燈矢は、車を体の一部かのように自然に扱うことができていた。普通の人が経験値で成すそれを、センスでやり遂げている。
それに、と応利はちらりと運転席を見やる。
街灯の明かりや対向車のライトに照らされて、正面を見据える燈矢の端正な顔がくっきり映る。スマートにハンドルを回す腕の筋も、さっと周囲に目を走らせる流し目も、すべてが格好よく見えていた。
普段と逆の席ということもあり、なんだかドキドキしてしまう。こんなベタなことで、と自分に呆れてしまった。
やがて車は、見慣れた道を進んでいく。畑が目立つ郊外の地域で、高速道路の出口が近い場所だ。
そして案の定、車はたまに来る場所に到着した。
「…お前な」
「いい機会だろ?」
そこは車で入れるラブホテルだ。車庫のようになった駐車場に車を入れると、誰にも見られずに部屋に直接入ることができる。フロントはなく、部屋の出口にある機械で受付も会計もする。
家で致すわけにはいかないため、二人はそういうことをしたいとき、仕事終わりなどに車でここまでやってきていた。
普段は応利が運転していたが、燈矢は道順を覚えていたらしい。初めてのドライブで来る場所としてはあまりにいろいろ丸出しだが、運転席の燈矢にときめいていた手前、断ることもなかった。
受付を済ませ、室内に入る。タバコの匂いが染みついた独特の空気はあまり好きではない。