ポッキーゲーム
●時系列はまったく気にせず読んでください
ポッキーゲーム
灯水は放課後、寮に戻ってくると焦凍の部屋に荷物を置いてからとりあえずキッチンに向かった。すっかり焦凍の部屋の住人と化しているので、自室にはほとんど戻っていない。
また、お茶の類もよく飲むのでキッチンに常備してあり、直行すればすぐ飲めるようになっている。
ちなみに、茶葉がすべてランクの高い上品ないでたちのため、特に灯水は気にしていないのに皆気にして勝手に飲んだりはしないようだ。「まずくなりそう」言って上鳴が諦めたように茶葉を棚に戻していたので、淹れる自信がないというのもあるかもしれない。
それもあってか、灯水が茶を淹れるときに居合わせた者はよく自分の分も求めて寄ってくる。
「おっ、灯水も俺も〜」
今日はキッチンに立つ灯水を見て、上鳴が寄って来た。先ほど切島たちはトレーニングに行くと言って出て行ったので、瀬呂などもいないようだ。上鳴は同行しなかったらしい。
「いいよ、ほうじ茶だけどいい?」
「おう!あっ、礼ってわけじゃねーけど、これ」
すると上鳴は、持っていた箱を差し出してきた。見慣れたパッケージを見て、そういえば、と思い出す。
「シェアハピ〜」
「ん、ありがと」
渡されたのはポッキーだ。今日は11月11日、マーケティングに乗っかっている上鳴は、らしいと言えばらしい。
寮生活ではなかなかコンビニ寄って、というのもないため、今日はさほど盛り上がっている様子はなかった。
「灯水はポッキーゲームしねぇの?」
「え…」
ほうじ茶をいれていると、カウンター越しに上鳴が楽し気に聞いてくる。彼氏としないのかということだろう。
「……特に予定はないけど」
「ふーん?さっき峰田が轟にポッキーゲームのこと教えてたぜ」
「あの野郎」
それはつまり、焦凍の方から吹っ掛けられる可能性が高いということだ。マジか、と思っていると、上鳴が箱をカウンターに置いた。
「これ、あと少しだしやるよ。天然王子のことだから何出してくるか分かんねぇし」
「別に何出されてもやる予定なんて…」
「ほんとに?あいつにワンコみてぇな顔して迫られたら?」
「……ほんとさ、俺らそんな分かりやすいかな」
「おー、すげー分かりやすいぜ」
あはは、と笑う上鳴の前に、少し渋めのほうじ茶を出してやった。
***
その後灯水もトレーニングや課題であちこちに行って、夕飯を食べ終わると、焦凍の部屋に戻った。先に戻っていた焦凍は、灯水を見てパッと顔を明るくする。
「灯水、ポッキーゲームしよう」
「やっぱりかぁ〜」
ワクワクとしながら見上げる焦凍。分かっていた。灯水は抗いようがないのだ。
仕方なくその前に座ると、焦凍は鞄から次々とポッキーを出してきた。
「どれにすりゃいいのか分かんなくて適当に買った」
「えっ、うわ」
「とりあえずこれで…」
「ちょっと待て」
焦凍が手に取った箱を見て、上鳴の言葉の正しさを灯水は痛感した。焦凍が持っているのは、プリッツである。
「表面に塩ついてんじゃん。食べづらい。却下」
「じゃあこれ」
「これ冬限定のココアパウダーついてるヤツだよ、同じ理由で却下だし単価高いから普通に食べよう」
「じゃあこれはどうだ?」
「極細?強度が足りないから却下」
「これは」
「小枝じゃねぇか!!速攻終わるわ!!」
なぜ普通のを買ってこれなかったのか小一時間ほど問い詰めたい。ツッコミを律儀にいれてやると、焦凍はおもむろにシュンとした。
「やりたくなかったか…?」
やはり上鳴の言う通り、捨てられた犬のような悲壮な感じで言われては灯水が強く出られるはずもない。
灯水はため息をつくと、上鳴にもらったポッキーの箱を焦凍の胸に押し付けた。
「…これ、普通のやつ。それでならやってもいいよ」
「っ!ほんとか!」
くそかわ、と内心で呟きながら灯水はいそいそと箱を開ける焦凍を見守った。それにしても、上鳴の忠告通りにしていてよかった。これで無理して極細でやる羽目に合わずに済んだ。
「よし、じゃあこっち咥えろ」
「ん、」
焦凍にチョコの方を向けられて口にはさむ。ついで、焦凍も反対側を咥えた。至近距離で見つめ合う。この状態が続くことが一番しんどいのだ。特にそういうことは感じていないらしい焦凍は、自分からサクサクと進めてくる。
早く終わらせたいのと謎の義務感とで、灯水も自分で食べ進めてみたが、どんどん近づいてくる焦凍の端正な顔立ちを見ているとドキドキして、急速に顔に熱が溜まってくる。
つい目線を逸らしてポッキーを見ると、焦凍の唇に吸い込まれていくポッキーが見えて、変にそれすらドキッとしてしまった。
そしてついに、ゼロ距離になる。
ポッキーはすべて互いの口に飲み込まれ、焦凍の柔らかい唇と触れ合う。
そんなバードキスをしながら口内のものを飲み下すと、突然焦凍の舌が押し入って来た。予想していなかったため驚いてさらに口が緩むと、焦凍の舌が強引に口内を暴れ始めた。
互いにすっかりチョコレートで甘くなってしまった舌と口内は、温かく溶けそうなほどだ。灯水の感じるところを知り尽くした焦凍によって、すぐに快感がせりあがり、麻薬のように甘い味が脳を痺れさせる。
ようやく解放されると、焦凍の口が離れ、つ、と糸を引く。灯水は肩で息をしながら、思考がぼやけて、目の前の焦凍の肩にもたれた。逞しい肩口に額をつけると焦凍が背中に腕を回して抱き締め、耳元で囁く。
「もっと甘いことしねぇ?」
低く濡れた声は、それこそ甘くて。
灯水はまともに考えることもできないまま、焦凍の首筋にちゅっと軽いキスをして答えた。