梅雨が来た!


●職場体験後
梅雨ちゃんと路地裏




灯水たちが職場体験でヒーロー殺し、ステインとの戦闘を行い、しこたま怒られた後に職場体験を終えて通常授業が始まった。
梅雨本番は過ぎたものの、まだまだ梅雨前線は列島北部にどんと構え、気圧の関係で前線が動いては関東も雨となる。つまりはまだ梅雨シーズンが過ぎたわけではない。

どこもかしこもジメジメとしていて、気圧が低く、それだけでもやる気をなくすというのに、灯水は職場体験で改めて自分の将来像が描けなくなり、体育祭以降の迷いが大きくなっている。正直、メンタル面としては勘弁して欲しい気候だ。

梅雨を煩わしく思うのはほかのメンバーも同じようで。


「むむ、緑谷君、今日はいつもより髪の毛のボリュームが増しているな」

「そうなんだ、湿気で余計にもじゃもじゃしてて」


最近の固定メンバーになりつつある、飯田、緑谷、焦凍と休み時間に話していると、飯田が緑谷の髪の毛が普段よりもじゃついていることに気づいた。緑谷は苦笑しながら毛先をいじる。


「分かるよデク君、ウチも髪の毛鬱陶しいもん」

「そ、そうだよね!」


そこへ麗日もやってきて、サイドの髪を手で漉きながらため息をつく。緑谷はようやく女子と話すことに慣れてきたようだが、それでもまだ硬くなっていた。


「轟君たちは、あんまり関係なさそうだよね」


すると、緑谷は灯水たちの方を向いた。個性のことを踏まえてのことだろうか。


「まぁ、俺は左手でドライヤーみてぇにすれば関係ねぇな。あんま気にしたこともねぇけど」

「俺も空気中の水分をコントロールすれば大丈夫かな」

「ええなぁ、空調いらず!つまり光熱費浮く!」


確かに2人とも個性で乗り切れる。基本的に、春夏秋冬いずれも困ることはない。花粉症くらいだ。
麗日はエアコンも加湿器も空気清浄機もいらない2人の個性に、光熱費がかからないという点でやたら羨ましそうにした。リアルすぎて緑谷も苦笑している。下宿している関係から、麗日は基本的に貧乏生活だという。


「俺は水分のコントロールなんてできねぇぞ」


焦凍は左手から熱気を噴き出しながら麗日に念を押す。なんのフォローだろうか。


「じゃあ、灯水君が一家に一台いればすっごく便利だねぇ!」

「悪い、灯水はやれねぇ」

「じょ、冗談だよ轟君…」


ぐい、と焦凍に肩を抱かれる。麗日は呆れたように笑い、灯水は肘で軽くどつく。内心で「この天然モンスターめ」と言っておいた。


「皆、梅雨は嫌い?」


そこへ、蛙吹が会話に加わって来た。どうやら聞こえていたらしい。名前も蛙吹梅雨、しかも個性もカエルでこの季節との相性はいい。ヒーロー名も「梅雨入りヒーロー」と銘打っていた。つまり、梅雨を悪く言うと蛙吹が傷つく。

そこまで容易に至った空気の読める緑谷、麗日、灯水は慌てて否定した。


「き、嫌いじゃないよあす…ゆちゃん!」

「そうだよ!ほ、ほら、季節にもメリハリって必要やし梅雨も大事だよ!」

「アジサイとかも風情あるし、梅雨もまたをかしだよね!」


3人のフォローによって、蛙吹は「良かった」とケロケロ笑う。ホッと胸を撫で下ろすと、よくわかっていなかったらしい焦凍と飯田は首を傾げていた。


「でも、湿気が多いのも困るんだったら、灯水ちゃんの個性で湿度を下げてみたらどうかしら?」

「え、でも梅雨ちゃんはいいの…?」


しかし蛙吹はそう提案してくれた。麗日はそれでいいのかと尋ねるが。蛙吹はやはり優しく笑う。


「ケロケロ、皆の気分が良くない方が私は嫌よ。元気な皆と楽しくおしゃべりしたいわ」


蛙吹のまっすぐで優しい言葉に、やはり空気の読める3人は心の中で感涙に咽び泣いた。相澤を心配する姿勢もそうだが、蛙吹の手放しの優しさはA組の癒しという他ない。


「蛙吹さんがそう言ってくれるなら…俺はやるよ…!」

「梅雨ちゃんでいいわ」

「お願い、灯水君…!」

「あす…梅雨ちゃんの心意気、頼むね灯水君…!」


なぜかドラマのように劇場チックな会話を始める3人に、飯田と焦凍、さらに蛙吹も不思議そうにするが、きっと切島や上鳴あたりも同じようになっただろう。

灯水は個性を使って教室内の水分を手に集めた。かざした手の上に集めていくと、すぐに大きい水の塊が現れ、体感の湿度も一気に下がった。その感覚に気づいたクラスメイトたちも、灯水のやっていることに歓声を上げる。


「おっ、サンキュー灯水!」

「助かるぜ!」


切島たちに手を振って答えてから、灯水は窓の外に水の塊を放り投げる。これで室内は秋なみの湿度になった。
体感の心地よさはもちろんだが、何よりも、蛙吹のひたむきな優しさが一番心地よく感じられたひと時だった。


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