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その後も、2人の戦闘は熾烈さを増していき、10分が経過する頃には、中央部から敷地の東半、全体の4分の1相当の市街地が瓦礫の山と化し、もう4分の1が氷に閉ざされ、街中に灯水の間欠泉が凍り付いた巨大な氷柱が30メートルほどの高さで聳えていた。それが20本ほどはあるだろう。
そして残りの区画も、灯水の霧氷によって凍り付いていたり、焦凍の氷が砕けたことで雪景色となっていたり、または焦凍の炎で黒煙を上げて居たりという有様。
無事な区画がなくなったあたりで、ついにオールマイトによる中止のアナウンスが流れた。そして、2人仲良く相澤に呼び出されることとなった。
グラウンドの控室となった小さな部屋。そこの丸椅子に2人は座らされ、正面に相澤とオールマイトが立つ。トゥルーフォームのオールマイトは少し困ったようにし、相澤は仁王立ちだ。
「俺は喧嘩をしろと言ったわけじゃないの分かってるかお前ら」
相澤の低い声が落ちる。
灯水としては、焦凍と決着がつかず不完全燃焼だ。それにタイマンと言ったのは相澤である。というかそもそも、焦凍が潔く温かいそばにすればよかったのだ。
「……だって焦凍が」
「だってじゃない」
ぴしゃりと相澤に遮られる。分かってるか、なんて確認するような聞き方をして答えたのに最後まで聞こうとしないことに、灯水はむすっとしてしまう。
「緑谷少年から話は聞いたよ、2人とも喧嘩してたんだって?些細なことで…」
「些細なことじゃねぇ」
今度は焦凍が不機嫌そうに言った。オールマイトは焦って「そ、そっか」ともぞもぞするが、相澤の厳しい目が向けられる。
「明日の無料でついてくるそばの種類で喧嘩してんのが些細なことじゃないなら、世の中戦乱状態だろ」
「価値観の違いでしょう」
「俺の価値観じゃないな、そばの種類を巡っていたずらにグラウンドを使いものにならなくするなんてことはな」
「先生が必殺技のアウトプットのためのタイマンだって言ったんじゃないですか」
それには灯水も反論した。相澤は今度はこちらに冷たい目を向ける。
「程度の話をしてるんだろうが」
「ま、まぁまぁ相澤君、元気がいいのは良いことじゃないか」
「そうやって甘やかさないでください。子供の喧嘩で街が一つ使えなくなったんです、いくらすると思ってんですか」
「ご、ごめん…」
あせあせとするオールマイト。ただ相澤も、厳しさだけしか見えない態度をやめ、ため息をつく。
「はぁ…お前ら、こんな餓鬼みたいなことするようなヤツらじゃないだろ。特に轟兄」
「そうだね、轟少年兄がここまでするとは、私もちょっと驚いたよ。大人っぽいというか、いつももっと冷静でおとなしいだろう」
2人揃ってこちらを見降ろす。こういうことをするようなヤツじゃない、なんて言うが、何を知ってこんなことを言うのかと思ってしまう。
「……俺の名前、轟兄じゃないです」
そこで、そう言ってぷいと横を向く。
しかし、さすがに灯水は視線を逸らした先で我に返る。ちょっと、今のは、子供っぽすぎやしないだろうか。
気付いてしまうと、らしくない行動を取ってしまったことが恥ずかしくなってきて、熱が顔に溜まっていくのを感じる。
すると、相澤が「じゃあ」と口を開いた。
「名前で呼んでやろうか」
え、と思って相澤を見上げると、ニヤリとして言った。
「灯水」
「っ、」
いつもそんな呼び方をしない担任におもむろに名前を呼ばれ、言いようのない気恥ずかしさが込み上げる。更に顔が赤くなっているような気がする。慌てて目線を逸らすと、相澤は小さく笑って、突然頭をわしゃわしゃと撫でて来た。
相澤の方も衝動で、という感じだったが、その腕をがしりと掴んで止めたのは、焦凍だった。
「何やってるんですか」
その目は睨んでこそいないが、相澤を凝視するものだった。何のつもりだ、と如実に物語る。相澤は苦笑して腕を離した。
「いや、今のは俺が悪かった…まぁ、そうだな、お前ら、特に轟兄の方は、俺も色々と事情を知っているのに「らしくない」なんて言うべきじゃなかったな」
悪い、と謝る相澤。恐らく、灯水が大人に対して反抗なんてできるような人生でなかったことを踏まえ、今更餓鬼っぽいことをするな、というニュアンスのことを言うべきではなかったと言っているのだ。素直に謝れてしまうのが、大人のずるいところだと思う。
そして、灯水も、また焦凍も、これ以上とやかく言えるほど子供でもなかった。この身近な大人たちが、半年にわたる学校生活で真摯に向き合い続けてくれたからこそ、こんな態度を取れたのだ。
「…こちらこそ、すみませんでした」
「…すみません」
「焦凍も、ごめん。言い過ぎたし、やりすぎた」
「俺も悪かった。ひでぇこと言った」
2人して謝ると、オールマイトがパン、と手を叩く。
「2人とも、個性の使い方は格段に良くなった!今回の喧嘩もまた、君たちにとっては新鮮で良い経験になっただろう。ランチラッシュには私から言っておくから、半玉ずつ種類を分けてもらうといい」
「…その手があった」
そして提案してくれた内容に、2人して思わずぽかんとしてしまう。そもそも分ければよかっただけの話だった。気づかずにこれだけの喧嘩をした2人に、相澤は深い深いため息をつき、そして、2人に重いげんこつを落としたのだった。