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ある夜、座椅子に座る焦凍の膝の間に強引に割り込む。「お、」と焦凍は軽く驚きつつも、特に拒否せず受け入れた。あぐらをかく膝の隙間に腰を落ち着かせ、向かい合うようにして抱き付いた。逞しい肩に手をついて、顎を鎖骨あたりに乗せる。焦凍は後頭部をゆったりと撫でながら、机の上の教材に目を通していた。
「焦凍、今日さ、早く寝るのやだ」
「…、わがまま言うな、寝不足は良くねぇぞ」
ダメか。灯水はここまでくるとむしゃくしゃする気持ちが最大限に高まった。
もういい、今度覚悟を決めて襲ってやる、そう心に決めると、取り急ぎこの鬱憤を晴らそうと、目の前の肩口に噛みついてやった。
シャツから覗く白い肌にがぶりと噛みつくと、さすがの焦凍もびくりと震える。
「なっ、灯水!?」
「……」
それには答えず、あぐあぐと軽く噛み続ける。口を離すと、歯型が若干残っていた。うっ血はしていない。跡が残っている感じも、焦凍が動揺しているのも、良い。
あ、これ新しい性癖発見した、と自覚した。
その衝動に任せて、もう少し上の首筋に噛みつくと、焦凍の血管の鼓動が感じられた。生きている、という感覚が歯の下に脈打つのを感じるのは気分がいい。いったん噛むのをやめて歯型を確認すると、そこを舐めてみる。そろそろ止められるかな、と思っていると、突然、焦凍は座椅子から灯水を背後の畳に押し倒した。
いきなり視界が反転して、天井と、切羽詰まった表情の焦凍だけになる。
「っ、焦凍…?」
「あんま煽ると…襲っちまうぞ…クソ、人が我慢してりゃ可愛いこと次々と…」
「え…今までの気づいてたの」
「は…?今までのわざとか?」
ここにきて新事実である。
どうやら話を聞くところによると、焦凍は灯水の誘いに気づいてはいたらしい。
「襲わねぇように我慢すんのに必死だった」
「なんでむしろ襲わなかったわけ?俺結構頑張ってたのに」
「……だって、お前の負担でけぇだろ。突っ込まれるわけだしよ。…俺はあんま、こういうこと分かんねぇし、世間一般の恋人がどういうモンかも分かんねぇ。でも、俺なりに、灯水のこと、大事にしてぇんだ」
「っ、」
焦凍は、ずっと灯水のために我慢してくれていたようだ。
大事にしたい、その一心で、灯水に手を出すのを頑張って我慢してくれていたというのだ。それを、灯水は煽り続けて来たわけである。
いっぱいいっぱいの様子の焦凍に、灯水はどうしようもなく焦凍のことが好きでたまらない気持ちになった。
灯水は焦凍の背中に腕を回し引き寄せる。そのまま唇を重ねると、至近距離で見つめ合う。
「ありがと、焦凍。でも俺も、そこまでやわじゃないし、それに…一番近いところで、焦凍のこと感じたいって、思ってるよ」
「灯水…」
双子でも恋人でも、言わなければならないことは言わねばならない。口にしないと、分からないことがあって当然なのだ。
出生も育ちも関係性も、何もかも「普通じゃない」2人だからこそ、2人なりの答えをともに探していかなければならないのだろう。
それは一筋縄でいくことでないものの、とても幸せな歩みでもあるのだと思う。
そんなことに気づけた夜だった。