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「ヒスイ、若鶏のポタージュと山うずらのポタージュどっちがいい」
「…ショートのおすすめで」
「じゃあ山うずらだな」
ショートはテーブルにどんと構える大きな皿から、山うずらのポタージュスープをヒスイの皿によそう。ポタージュと言っても、王家のポタージュは具材メインでありかなりボリュームがある。
「なんかもう…ショートがよそってくれるのも慣れたわ」
「そうか。なら良かった」
ショートが甲斐甲斐しくよそうのは、最初使用人たちを震撼させた。王子にやらせるわけにはいかなかったからだ。血相を変えた彼女たちには申し訳なかったが、ショートは自分でやりたかった。というか、ヒスイに関することはすべて自分でやりたいのだ。
命令として使用人たちを下がらせ、取り分けるのは今ではすっかりショートの役割だ。
そんなショートの変化を、使用人も貴族もそれはそれは驚いていた。
ヒスイは豪勢な料理そのものに驚いてはいたのだが、意外にも教えずともマナーはなっていた。
「次のアントレは若鶏のトリュフ詰めがおすすめだ」
「じゃあそれでいいよ」
ヒスイは1年経った今も気を遣っているように見えるが、実は単に面倒だからショートに選ばせているだけである。それはショートしか知らない変化だ。なんだかんだでふてぶてしいところがあるのは、ショートの兄といったところだ。
その後もメインディッシュに鶏肉をふんだんに使ったパイを食べ、デザートは大量の果実と砂糖で似た果物、ジャムを数種類。
大量に出たものを少しずつ食べて残りはすべて廃棄というのが王家の食事だ。ヒスイはもったいないと最初は抵抗があったようだが、今は諦めているようだった。
そうして食事を終えると、2人は部屋に戻る。同じ部屋にさせているので、広いショートの自室は幸せな手狭になった。
ソファーに座ると、ショートはヒスイを手招きする。ヒスイは「はいはい」と言って隣に腰かけてくれるので、ショートはヒスイを抱き締めた。
この距離も、最初はショートは内心で怯えていた。ヒスイが嫌がっていたらどうしようと思っていたのだ。だがヒスイもヒスイで、ずっと1人で世界を渡り歩いてきたことに気づかないうちに寂しさを感じていたようで、ショートに甘えてくれる。すり、とショートの鎖骨から首筋にかけて額を押し付けて、胸板に顔を埋めるのは、甘えるヒスイの仕草だ。
そんなヒスイの頭をそっと撫でて、背中を摩る。
甘えているのはヒスイだが、これはショートにとっても同じこと。互いに、離れていた時を埋めるように距離を詰めていた。
正直、ショートは自分だけがヒスイのことを好きで、依存していて、今まで世界を飛び回る生活をしていたヒスイはすぐに王城を出たいと思っていると考えていた。だが実際には、その気持ちもあるものの、ヒスイもきちんとショートの側にいたいと思ってくれている。
怖くて思わず口にしてしまったときに、ヒスイもそう告げてくれたのだ。
「確かに俺は、また世界を回りたいって思う。でも、初めてショートを見たときから…自分にとって唯一無二の存在に出会ったときから…それから離れることが、怖くて仕方なくなったんだ」
双子だからだろうか。見た目は普通の双子ほど似ていなくとも、直観で気づけるのだ。互いが血を分けた片割れだということに。
その言葉を聞いたときに、ショートは深くそう納得した。
今もこうして、その恐怖や今までの寂しさを忘れるようにショートに縋っている。それはショートとて同じことだ。
何より、あれだけ探し求めていただけあって、ショートの気持ちはかなり変質し、相当ヒスイのことを愛している。それが家族愛の範疇にあるのかは分からないが、どうでも良かった。
腕の中で、猫ならばゴロゴロと言っていそうなほどに気持ちよさげにしているヒスイを見ていると、ショートは堪らなく幸せに思える。伝わる温もりに、互いの存在をしっかりと感じられる。それだけで十分だった。
「ヒスイ、愛してる。俺はもうお前がいないと生きていけねぇ」
「…大げさだって言えないのが俺らだよね」
苦笑気味に言うと、ヒスイは自分も腕を上げると、ショートの頭を撫でる。それは初めて出会ったあの日から変わらない優しさだ。そして、ショートの胸元から穏やかに見上げる。
「ありがと、迎えに来てくれて。俺の王子様?」
「俺の方こそ、生きて俺と出会ってくれてありがとな、王子様」
「元行商人だけどね。守銭奴王子みたいな」
そんなヒスイの冗談に少しだけ笑って、ショートはヒスイの頭に自分の顔を載せる。「重い」と文句が出るが、拒否されなかった。
あのつらい日々は、この幸せすぎる時間のためだったと思えば、人生のつり合いが取れるかもしれない。そんなことを考えてしまうくらいには、ショートはこの幸せを噛みしめていた。