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●プロヒーローになったあと
双子のヒーローとして独立し、事務所を開いて半年。
もともと注目されていた灯水と焦凍は、独立したことでより一層世間の注目を集めることとなった。設立したてで忙しいということを理由にまだ相棒の募集はしていないが、相棒を希望する声を多くもらっている。
焦凍はというと、「今は2人でやりてぇ、やっと親父んとこから独立したんだしよ」とあまり相棒のことは考えていないようだった。以前よりだいぶ炎司とは関係が良くなったとはいえ、単純に父親の下で働く窮屈さはあったようだ。
そうしてエンデヴァーのもとから独立した2人だが、まずは事務所を軌道に乗せるべく、広報活動も重視していた。今はそうしたことも自分たちでやらねばならない。
特に雑誌などの仕事は、炎司の事務所にいる頃より多く舞い込んできた。恐らく炎司が勝手に断っていたようなものも多かったのだろう。エンデヴァーガードによって防がれていたものが、独立によって自由になったため、ここぞとばかりに仕事が来ていた。中には確かにきわどいものもあって、あまり仕事は選べない立場とはいえ少し考えてしまうところもある。
ただ、意外と焦凍の方がそうした仕事には敏感だった。鈍感天然ボーイだと灯水は思っているので、来た仕事をそのまま引き受けそうだと思っていのだが、焦凍は灯水にやらせたくない仕事は断っていた。灯水も焦凍にやって欲しくない仕事はそれを本人に伝えていたので、結局だいぶ仕事は選んだような気がする。
それでも炎司のところにいるときよりは多い。
今日も、そうした仕事が2件入っていた。内容はまずCMの撮影、続いて女性誌の写真撮影だ。この手の仕事は、エンデヴァーの人気を上げるためにも、広告塔として2人は昔からやっていた。内容のハードルを下げた形である。
事務所で借りている駐車場の一角、そこに停めた黒い乗用車に2人は乗り込んで都心のスタジオへ向かう。運転は灯水だ。
実は焦凍より灯水の方が運転はできる。2人とも免許を持っているが、焦凍は少し危なっかしいというか、「お、」と言ってたまに乗り上げたりぶつけたりする。
それを避けるために灯水が運転するうちに、焦凍はさらに運転する機会が減り、よりへたくそになってしまった。
助手席に乗った焦凍は、今日の仕事の内容について送られた資料に目を通している。最近は仕事が立て込んでいて、2人ともそうした資料は移動時間に見るのが常だった。
「どんな?」
「チョコレートの新作のCMだな。2つの味を同時に発売するんで、俺たちがセットで出るらしい。次のは女性誌na-naで、だいたい3ページ分に使う写真を撮るってよ」
「チョコか、この時期はギリギリだね」
今は1月初め、2月のバレンタインを視野に入れているのなら、CM撮影を今やるのは相当遅い。どうやら、店頭に並び始めてからCMを放映するようだ。それにしてもギリギリなのは、きっと何かごたついたのだろう。
「噂によると、先にこのCM内定してたの爆豪と緑谷らしい。詳しい内容聞いた爆豪が拒否して、それで急きょ俺たちに白羽の矢が立ったんだと」
「どこ情報?」
「麗日。あいつ、このチョコのレギュラーCM担当してっから」
「あぁ…そういえばそうだったね。うわぁ、あいつらの尻ぬぐいかぁ」
「いいじゃねぇか、やっぱ2人でCMやんの気分いい」
「俺らでやってるCMのときはチャンネル変える手止めるもんね焦凍。そういうとこあざといなぁ」
交差点に入りハンドルを回しながら言うと、焦凍はよく分からなさそうにしていた。20代になって精悍な顔立ちになったが、そういう抜けたところは変わらない。そんな隙だらけな弟兼恋人にずるいと思うのは、もう何度目か分からなかった。