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スタジオに到着すると、余所行きの笑顔で「よろしくお願いしまーす」と言いながらスタッフの間を楽屋に進んだ。あくまで2人はヒーロー、こうした仕事は本業ではないので、それなりに「お客様」感を出しながら、それでも若手ヒーローらしい爽やかさも出さねばならない。
焦凍はいつも通りだが、焦凍もきちんと余所行きの言動は身に付けたので、ある程度挨拶やちょっとした世間話はするようになった。
それぞれ「ヒスイ様」「ショート様」と書かれた別の楽屋に入り、2人は着替えやらメイクやらをさせられてから、緑色の背景と床のスペースに連れていかれた。今回の映像は背景がすべてチョコレートやイチゴの合成映像になっているので、こうした背景を投影するための緑色の仕様になっている。
再び挨拶をしながら撮影スペースに入ると、CM監督やスタッフが全員揃って挨拶を返してくれた。会釈を続けて監督のところへ行けば、さっそく緑色のところに立つよう指示された。
「じゃあまずスローのシーンから撮影しまーす、イチゴ準備お願いしまーす」
今回のチョコは季節限定で、ビターストロベリーとスイートストロベリーというともにイチゴテイストのものだ。ビターの方を焦凍、スイートの方を灯水がイメージするらしい。
色合い的には、爆豪たちより灯水たちの方がぴったしではあるのかもしれない。
2人はイチゴを食べるところをスローカメラで撮影される。
それぞれの映像を交互に流し、同時にそれぞれの商品の説明をナレーションが入れる。焦凍には「大人のビターと酸味が織りなすクラシックスタイル」という説明、灯水の方には「ホワイトチョコの甘さが包む果実感」という説明が入る。
この撮影がなかなか大変で、撮影しなおす度にイチゴを食べる必要があるため、だんだんイチゴを食べすぎて気分が悪くなりそうになってくる。
ようやくイチゴのシーンが終わると、最後に同じくスローカメラで2人が椅子に座る映像が流れる。2脚の椅子が離れて置かれ、映像ではその間に新商品のパッケージが並んで映る。
焦凍は右足を、灯水は左足を組んで椅子に座り、焦凍は大人っぽくアンニュイで危険な感じに、灯水は甘く微笑むとの指示だった。言葉は細かいようで実はとてもふんわりした指示である。
それも何度かリテイクしてから、撮影は1時間半ほどで終了した。
最後に音声だけ、最後に流れる2人の声を別撮りする。「君はどっちを選ぶ?」と揃えて言うだけだ。そこは双子パワーで一発OKをもらい、この撮影はすべて終了となった。
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続いて別のスタジオに赴き、同じように楽屋に通されて準備をする。次は女性誌で載せられる写真撮影だ。これがなかなか時間がかかる上、照明が暑く少しつらい。
体温調節はできるが、火照ったような感じは消せないのだ。
趣旨としては、「タイプの違う2人のイケメンとデート!?相手に合わせてコーデを変えるには」という、デートの服装に関する特集らしい。焦凍は大人っぽい高身長イケメンに合わせるというテーマ、灯水は人気者を独り占めして目線を釘付けにさせるというテーマである。なぜ焦凍の方ばかり大人っぽい感じなのか灯水としては文句を言いたいところだ。
色々と服装を変え、背景の緑色のブースやちゃんとしたセットなど場所も変えつつ撮影は続いた。
そして最後に、なぜか服を上半身だけ脱いで、下半身をシーツで隠し、ソファーの上に焦凍が灯水を押し倒す構図で撮ることになった。
「え、なぜ」
「特集の最初のページにどーんとね、読者がそのページのために買うようなものをね」
「はあ…」
ディレクターに言われ、なんだそれはと思いつつ、ここまで来て拒否するわけにもいかないので応じた。2人して上に来ていた服を脱いで、まず灯水はソファーに仰向けになる。
その上から押し倒すようにして、同じく上裸の焦凍がソファーに乗り上げる。
「キャッチコピーは『2人の禁断の世界へ』なんで、そういう感じでお願いします」
どういう感じだ、とツッコミを内心で入れた。
2人の下半身はシーツで隠され、焦凍は腕を灯水の顔の横につく。カメラ側には腕を置かずに、灯水の腕を添えるように掴んだ。
「キスするか?」
「んなわけ」
「でも禁断の世界なんだろ」
「禁断すぎだろ」
さすがに双子で恋人とは公表していない。それでもなおキスしようと迫る焦凍の胸元に手を当てて押し返す。
「なぁ、灯水」
「っ、焦凍…」
これはまずい、と思った瞬間、「OKでーす!!」という声がかかった。なんと一発OKだ。思わず驚いて2人してそちらを見やると、監督は満足そうだった。
助かった、とちらりと焦凍を見上げると、どこか物足りなさそうにぶすっとしていて、本当にキスする気だったのだと灯水は思わずため息をついた。