3
撮影を終えて2人はそのまま帰宅した。マンションの一室で一緒に暮らしている。双子だと同棲していてもそう取られないので楽だった。
当然ながら真っ暗な部屋に入り、灯水はため息交じりに「疲れた〜」と言いながらソファーに飛び込んだ。どうせ焦凍が電気をつけるだろうと思っていたのだが、焦凍はリビングの電気をつけずに、灯水が横たわるソファーに乗り上げて来た。
うつ伏せの姿勢から仰向けに変えると、すぐ目の前に焦凍の端正な顔が迫る。
窓からは、マンションが面する通りの街灯や車の明かりが数十メートル下からとはいえ届いており、僅かに明るさが部屋に差し込む。それに淡く照らされた焦凍の綺麗な顔とさらりとした髪の毛が視界いっぱいに広がった。
「焦凍…?」
「…さっき、キスできなかったろ」
「あぁ…しょーがないな」
「灯水はキスしたくねぇのか」
「確かめてみれば?」
わざと煽る様に言ってやると、焦凍は噛みつくようにキスしてきた。お互いに少し冷えた唇が合わさる。それを先に割る様に舌を差し込んだのは灯水だった。
焦凍は一瞬驚いたようにしながらも応えてきて、角度を変えながら深く2人はキスをする。快感を追うようなものというよりは、2人の距離を縮めようとするようなものだった。
少し長いキスを終えると、焦凍は顔を離し、そっと灯水の頭を撫でる。甘んじてそれを受け入れると、焦凍はふ、と笑う。
「かわいいな」
「…今日それタブーワード」
「?そうなのか」
天然彼氏はそんな灯水の言葉に特に何も言わず頷く。いやそこはもっと深く聞くところだろ、と思うと、焦凍は姿勢を変えた。
灯水の隣に横になり、灯水を背もたれ側に押しやった。落ちないようにという配慮だろう。さらっと腕枕までしてきて、こういうことを自然にしてしまう焦凍に相変わらずさすがだと思う。
すり、と上腕にすり寄ると、焦凍は「かわ…」とだけ言って口を噤んだ。タブーと言ったのを思い出して寸でで止めたらしい。
それにくすりと笑い、灯水はちゃんと説明してやることにした。
「なんか、いつも焦凍は大人っぽいイメージで撮影とか企画とかされるじゃん?俺のが一応兄なのに釈然としななぁって思ってさ」
「そういうことか。大丈夫だ、灯水の良さはそういうとこにある」
「俺の内面の話だから…まぁ、別にそんな気にしてもいないけどね」
いまいち理解していない焦凍は予想通りだ。周りの評価に頓着していないから分からないのだろう。灯水もそこまで気にしているわけではないが、最近この手の仕事が多く、意識する機会が多かったからちょっと思うところがあっただけだ。
「メンタル的には灯水のが大人だろ。事実としてお前のが大人だからいいじゃねぇか」
「その自覚あったんだ」
「俺が…お前のこと傷つけた来たからな…灯水のが精神的に辛酸舐めて大人になってんだろ…」
「まーたその話してる…」
こうして大人になっても焦凍は高1のときのことを気にしている。
あのときは確かにつらかったが、今にして思えばたった数か月の出来事だ。喉元過ぎればではないが、灯水はあの9月にはもう完全に立ち直っていた。
「でもこうしてると、高1のときに話してたことが実現したんだなって実感するね」
「…そうだな」
2人で独立して一緒に事務所を立ち上げて、一緒に暮らしていく。そんな未来を描いたあのときの2人は、成長してそれを実現させることができた。
「また、未来の話しねぇとな」
「そうだね。取り急ぎ、相棒のことちゃんといつまでにどうするのか決めないと」
「…相棒いらなくねぇか」
まだ2人でやりたいらしい焦凍はそう言ってぎゅう、と抱き締めてくる。それに苦笑しつつ、明日はきちんと話し合いだな、と暗い部屋の天井を見て考える。
こうして前に一歩一歩進んでいけるのは、隣に焦凍がいてくれるからだ。一緒に同じ未来を設計できる幸せをかみしめて、それより先に今晩の夕飯のこと考えないと、と思いついた灯水だった。