花粉、義憤
●2年になる前の春と思ってください
雄英高校は静岡県の沿岸にある町の、高台に聳える広大な学校だ。本校舎以外にも様々なグラウンドが敷地内に並んでいる。その合間には森があり、無理矢理山を切り開いて造られた学校なのだと分かる。
それはつまり、それだけ自然に溢れているということで、もう少し言えば、大量の花粉を飛散させる場所でもあるということだった。
「ぶえっくしょい!!」
「ひっくち」
「んあああ!!」
阿鼻叫喚、教室はくしゃみと鼻を啜る音と目の痒さに叫ぶ声で満ちていた。寮からエントランスまでの数分で一同はあっという間に花粉症の症状を出していた。
「いやぁ、みんな大変そうだねえ」
そんな中でけろりとしている者が何人かいた。
笑って様子を眺めている芦戸は酸でコーティングしているらしい。心配そうにしてくれている蛙吹や「目に見えぬ狂乱」と何か言っている常闇は、体質として花粉症にならないそうだ。
切島は粘膜を硬化させており、障子は普通にマスクをしている。呼吸を触手にやらせる手段もあるとのことだ。
それ以外は完全にアウトである。
もちろん、灯水も例外ではなかった。
「むり……殺していっそ……」
「ずびっ…生きよ、灯水君…」
机に項垂れる灯水の後ろで鼻をかんでいる葉隠。見えないことは特に関係ないらしい。
「無益だ……この国は……」
「まって、どうしたの灯水君」
おもむろに語り出す灯水に葉隠は笑いを堪えきれなくなりつつ鼻もかんで忙しそうだ。それを気にせず灯水は言葉を続ける。
「杉もヒノキも……今や林業の衰えで国産が使われることは少なくなり……国内で林業者が採るよりも輸入する方が安いから……紙も割り箸も建築材も輸入して、他国の木を無駄遣いするくせに……国民は花粉にやられる……誰も……救われない……ッ!!」
「やめて、鼻水とかくしゃみとかで大変なんだよ、笑わせないで」
苦しそうにもがく葉隠。
それにしても、もう限界だ。鼻をへし折って目玉をくり抜いて漂白したい。重曹に全身浸かりたい。そんなことを考えるフラストレーションで、ついに灯水は立ち上がった。
「「だあああうっぜえええ!!……は?」」
そうして叫びながら箱ティッシュを比較的丁寧に机に叩きつけると、なぜかその叫び声が被った。
声の主は2つ後ろの不良、爆豪だ。やつも立ち上がって叫んでいた。
その瞬間、二人はピンときて、咄嗟に焦凍の方を向く。察した焦凍は、神妙に頷いて立ち上がった。
そして三人は集い、互いに向かい合って立つと、教室の中程で空に手を高々と掲げた。灯水は選手宣誓のように厳かに告げる。
「我ら花粉滅却三銃士…この世の花粉を焼き尽くすと、誓う…!」
「「誓う」」
焦凍と爆豪が口を揃えた。「あいつらいよいよやべーな」という切島の声など些末なことに過ぎない。
爆豪は腕を下ろすなり真剣な面持ちで口を開いた。
「いいか、作戦はこうだ。俺の爆破と半分野郎の炎熱で森を燃やす。それをメッシュが操って延焼させ、適宜洪水を起こして消火する。それ100ヘクタールずつ繰り返す」
「了解。焦凍、あとで一緒に父さんにも頼んでみよう。杉の森でプロミネンスバーンしてもらお」
「背に腹はかえられねえか」
「手始めに静岡から花粉を消し去ンぞ…!」
「何やってんだアホども」
花粉を焼きつくす算段をつけていたところに、相澤の冷たい声がかけられた。ホームルームの時間らしい。義憤に駆られたかのように話していた三人をアホと括った。
「正直お前らをあえて野放しにしたい気持ちもあるが、今は八百万特製の花粉除去装置で我慢しろ。なかなかすげえぞ」
と言いつつ相澤もマスクとゴーグルでいよいよ不審者だ。そんな相澤も三人には気持ちの上では火の7日間をやって欲しかったようだが、八百万が教室の四隅に設置した機械が徐々に教室をクリーンにしていく。
それにともなって、「いったい何を言っているんだ?」と気付いた三人は、何もなかったことにして椅子に戻った。
思い出したら羞恥で死ぬからに他ならない。