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夜、バレンタインの熱も冷め、2月らしい底冷えに包まれる。
切島は風呂上がりに共有スペースのテーブルに座っていたのだが、後から出て来た焦凍を見付けて手招きした。上鳴や瀬呂はまだ風呂にいる。
他はソファーで騒いでいるので、焦凍と2人でテーブルにつくことになる。


「どうした?」

「別に?そういや、灯水は?」

「……知らねえ」


いつも一緒に居る片割れを尋ねると、焦凍は目に見えてしょんぼりとする。昼間のキレ方を考えるに、灯水は拗ねているだろう。


「喧嘩か?」

「その方がマシだ。なんか不機嫌なんだが、理由が分かんねえし、教えてくれねえ。呼び出されたっつってたけど、『お前には関係ない』って言われて」


焦凍はテーブルに項垂れる。単に、原因も分からず灯水が不機嫌でいることに落ち込んでいた。何かしてしまっただろうか、と考えているのだろう。


「あいつ、轟が何度も呼び出されて、挙げ句にあちこち触られてるの見てキレてたぞ。机凍ってたし」

「……そうなのか?」

「嫉妬だろ。灯水のことだから、そんな自分も嫌だ、とか思ってそうだよな」

「それで拗ねてんのか…可愛すぎだろ……ぶち犯してえ……」

「灯水に無体を働いたら制裁だかんな」

「しねえよ、これ以上あいつを傷付けたら俺が罪悪感で死ぬ」


前科持ちの焦凍は、これ以上罪を重ねれば自分が持たないと真面目な顔で言った。恐らく、嘘はない。誇張でもないだろう。


「八つ当たりとか、いたずらに不機嫌になるのもさ、甘えてんだろ。あとで甘やかしてやれば機嫌直んじゃね」

「俺もそう思う」


焦凍が持ち直したところで、切島は本題に入ることにした。先ほども、しれっと灯水が告白らしき呼び出しを受けていることを話していたが、焦凍は嫉妬していないのだろうか。


「なぁ、お前さ、灯水がモテてんの見て嫉妬したりしねえの?」

「?いや。灯水の魅力は俺が一番よく知ってる、モテて当然だし、灯水が皆に好かれてるのは俺も嬉しい」

「意外だわ。てっきりお前こそキレそうなのに」


そう、過ちをしでかしているほどなのだ、焦凍の方がこういう場面で拗ねそうなものだ。切島は灯水が嫉妬で怒って焦凍がこんな殊勝なことを言うとは思っていなかった。


「俺がキレんのは、あいつが他のヤツのことを好きになったときだ。灯水は、俺に対して嫉妬してんじゃなくて、俺に寄ってくる奴らに嫉妬してんだろ。俺はちげえ」

「なるほどな、灯水は轟に向けられる目を気にしてて、轟は灯水が向ける目を気にしてるってことか」


言われてみればこの双子らしいと切島は納得した。周りをよく見ている灯水は焦凍に言い寄る者が嫌で、灯水しか見ていない焦凍は灯水の目が他人に向くことを嫌う。


「確かに、灯水は轟が別の奴好きになっても、『焦凍が幸せなら』とか言って身を引きそうだよな。逆だったらどうすんの?」


もし、灯水が他のヤツを好きになったらどうするのか。
焦凍は少し考えたのち、静かに口を開く。


「記憶の操作だな。そういう個性や技術の存在は確認されてる、何億円でも積んで、忘れさせる。そうすりゃ、傷つかねえだろ?あいつを幸せにすんのは俺だ」

「へ、へえ〜」


やぶ蛇か、と切島はこっそり恐怖に震えた。焦凍は、確実に何度か、こんなときが来た場合を想定している。だから、記憶の操作によって穏便にことを済ますための方法をすでにリサーチ済みなのだ。
ずっと前から考えていた、その異常さが、まさに焦凍らしいと切島は呆れる。

するとそこへ、呼び出しから戻ってきた灯水がエントランスに入ってきた。せっかくなので、同じ質問を投げて反応を見つつ、焦凍に機会をやるつもりだ。


「なぁ灯水、もし轟が他のヤツのこと好きになったらどうする?」

「はぁ?」


やはり依然としてキレている。それでも、質問したのが切島だからか、ちゃんと考えてくれた。そして、轟の紅白頭をぽす、と叩く。


「このポンコツが俺以外にうつつ抜かせるとも思えないけど。まあ、そのときが来たらまた俺のこと好きにさせるだけでしょ。あらゆる手を使って落としてやる」


こちらも、切島が思っていたよりも少し異なる答えだった。やたら男前である。
焦凍はそんな灯水に「はぁ…好き……」と語彙力の乏しさを露呈させる。


「おら、早く恋人の機嫌取れよ彼氏さん」

「任せろ灯水」


そして、灯水に促された焦凍はサッと立ち上がって灯水の肩を抱く。
結局、この2人が本気で嫉妬に狂うような日は来ないのだろう。なぜならこんなにも、2人は互い以外が見えていない。
惚気を見せられたものの、切島はそんな2人に、どこか安心したのだった。


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