特別指名サービス


轟×双子兄
インターン後くらい



「お、そういや持ってきてたな」

「なにを?」


焦凍の部屋でいつも通り、課題や夕食を終えてくつろいでいるときだった。
そろそろ季節の変化も大きくなってきて、焦凍は実家から持ってきた服を漁っていた。そんなときに、ふと焦凍がそう漏らしたので、灯水も気になってそちらを向いた。


「神野んときにドンキで買った服」

「どういう…ってそれか」


どうやら焦凍が見つけ出したのは、神野での事件にあたって、緑谷たちと乗りこんできたときの服だった。時間帯もあって、一行は水商売っぽい服装をドンキで揃えたのだという。
思い返せば、緑谷たちに戦場から連れ出され、駅前で合流した際、焦凍はホストの格好をしていた。


「姉さんには黙って出て来たしな、家に置いとくとバレかねねえから、処分するために持ってきてたの忘れてた」


「そのわりには洗濯までしてあるね」

「持ってきた服まとめて洗ったからだろ。全然気付かなかった」

「洗濯までして気付かないって…」


焦凍の天然ぶりに改めて呆れつつ、灯水は焦凍が手に持つ服にひとつ思いつく。


「ね、それ着てみてよ」

「?なんでだ?」

「ホストの格好してさ、俺のこと接客して?指名入りまーす」


あのホストの服装は焦凍によく似合っていた。もちろん、ドンキの安っぽさはあるが、高校生なのでそれくらいの方が良い。


「神野のときはよく見れなかったし」

「分かった」


特に抵抗もなにもない焦凍は、すぐに頷いて着替え始める。あのときは、灯水に格好を楽しむ余裕なんて、あるはずもなかった。

焦凍は寝間着のシャツをばさりと脱ぎ捨て、白いシャツを素肌に羽織る。続いてジャージを脱いで、黒のボトムを履く。最後に黒いベストと金色のチョーカーをつけて完成だ。


「これでいいか?本当はカツラもつけてたけどな」

「ウィッグって言いなよ…それは焦凍っぽさなくなるからいいし。はぁー、にしても本当にイケメンだな??」


ホストの格好となった焦凍は、贔屓目なしに格好いい。シャツの袖も捲ってくれていて、ボタンも3つ空けているため、筋の張った太い腕や逞しい胸元が晒されている。


「よし、じゃあほら、俺が焦凍のこと指名したわけだし、もてなしてよ」

「どうすりゃいいんだ…?ドンペリのドンペリ割りとかねえぞ」

「意外と形を守ろうとしてくれんのな…んー、焦凍はコミュ障だから話術とかないしなぁ。ぶっちゃけ顔だけっていうか」

「唐突に悪口じゃねえか」


ホストの才能は間違っても焦凍にはない。しかし、酒もトークもなく接客などイメージがつかなかった。


「じゃあ、俺が好きにやるぞ」

「へ、うん、まぁ任せる」


すると、焦凍はそう言って自分から動いた。
灯水の隣に座り、胡坐をかいて落ち着くと、そっと肩を抱き寄せる。


「最近はどうだ」

「どうって…ずっと一緒にいるじゃん」

「そうじゃねえ。落ち着いたか?」


落ち着いたか、そう聞きながら、焦凍は灯水の心臓あたりにそっと手を当てる。心を示しているのだ。つまり、インターンのあとの灯水の様々な動揺が落ち着いたのかどうかを聞いている。
灯水が立ち直るためなら何でもすると言って、焦凍は今までずっとそばで欲しい言葉をかけ、欲しい温もりをくれた。


「そう、だね…まぁまぁかな。焦凍がいるし」


それは灯水の正直な回答だ。
完全に立ち直ったわけではないし、殉職というヒーローにはつきものの死に方が改めて事実として突きつけられた衝撃は忘れられない。
それでも、隣にいてくれる存在に、救われた。

灯水は肩を抱かれるがまま、焦凍の胸元に頭を預け、完全に体重をかけてもたれた。決して軽くはないはずだが、焦凍はまったくブレもせずに灯水を抱き締めた。
ボタンが空いて晒された胸板にすり、と顔を寄せれば、焦凍の逞しい腕が優しく、しかししっかりと背中を抱える。


「…ふは、普通こんなことホストもしないよね」


ふと、この状況が灯水のホストをやれという無茶ぶりで始まったことを思い出す。焦凍もおかしく思ったのか、息が揺れるのが頭上で感じられた。
そして、焦凍は腕に閉じ込めた灯水の耳元に顔を寄せる。


「特別指名サービスだ」

「へえ、でもお高いんでしょ?」

「条件を満たせばいつでも無料だぞ」

「どんな条件?」

「俺以外、指名すんなよ」

「じゃあ、焦凍も俺以外の指名は断ってよ」

「当たり前」


そっと後頭部を撫でられながら、耳に直接焦凍の口元から低く綺麗な声が囁かれる。
そうして紡がれた言葉に安心して、擽るように後頭部を撫でる指先に薄く笑い、灯水は目を閉じた。


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