雨の晴れ間


●保須事件後


灯水は窓の外の雲が多い空を見て、軽くため息をついた。そのガラスに映る自分の顔がひどく暗いように見えて、慌てて取り繕う。ここは学校なのだ、人気のない廊下といえど油断してはいけない。心配されては、いけないのだ。


***


体育祭のあと、爆豪とひょんなことから山登りをすることになってから、早くも1週間が経過した。その間に、職場体験があって、灯水は保須にてとんでもない経験をした。

ヒーロー殺し・ステインとの戦闘である。

焦凍の頼みでエンデヴァーの事務所にて職場体験をしていたが、その際、保須で敵連合の攻撃に遭遇し、更に緑谷の救援要請を受けて向かった先で、負傷した飯田と緑谷を発見した。
その後、焦凍と灯水の加勢で戦いを続け、ついに4人でステインを倒すことに成功した。

無断で個性を使用したことで厳重注意をされはしたが、エンデヴァーの功績とすることで大きなお咎めはなかった。

この一件を機に、灯水はなおさら、どんなヒーローになりたいのか、という意識を持てなくなってしまった。前にどんどん進んて行く焦凍との差を感じ、仲が良くなった緑谷や焦凍、飯田の中に入っていけない。

そんな気分でいたからか、今日の演習で救助レースとやらをやった際、爆豪と空中で接触して軽く負傷した。すぐにリカバリーガールに治してもらったが、らしくない失態に皆に心配される始末。
不甲斐なさで更に嫌な気分になってしまった。

それもあり、今日は焦凍には先に帰ってもらった。図書館で調べ物をしたい、と言って1人で帰ることにしたのだ。飯田と緑谷と3人で帰路につく姿を見て、なんとなく、ひとりになって良かったなんて思ってしまい、そんな自分に気づいてため息をつきたくなる。

梅雨入りして曇天が続くこともあり、こんなことでも気分が滅入りそうになるのだろう。


「…あれ、」


そんな調子で下校しようとしていたときだった。
昇降口につくと、ガラス扉のところに見知った背中が見えた。薄い色素の髪に不良のような立ち姿。


「…どうしたの、爆豪君」

「…あ?」


柄も悪く振り返った爆豪のところに、靴を履き替えて進む。爆豪はすぐに空に視線を戻した。灯水も見上げると、なんと廊下を階下へ向かう短時間に雨が降り出していた。


「うわ、雨になってる…てか爆豪君帰らないの?」

「うっせーな」

「…まさか、傘ないの」

「おめーに関係ねぇだろ」


どうやら図星のようだ。爆豪は傘を持っておらず、振り出した雨にどうするか考えあぐねていたようだ。


「梅雨に傘持ち歩かないって…」

「うるせぇっつってんだろ!」

「あ、俺の傘入ってく?」

「聞けや!!」


先ほどの演習でぶつかってしまったこともあってか、登山したときより当たりが強い。しかしそれは気にせず、灯水は折り畳み傘を開くと爆豪を促した。


「明日、小テストあるじゃん。早く帰らないとまずいでしょ」

「……どうせすぐ止むだろ」

「…いや、この辺りはまだ降り続けるみたいだよ。あと3時間くらい」


スマホで天気予報を見れば、しばらく振り続ける予想だった。ちょうど断続的な雨雲の通り道になってしまっている。海に面した街なので仕方ない。


「ほら、早く」

「……クソ、」


そんな悪態とともに、渋々といったように爆豪はこちらへ一歩寄った。こうも全面に嫌そうな感じを出されるとかえってすがすがしい。
灯水は爆豪といわゆる相合傘をして、雄英から駅までの道のりを歩くことになった。そうしたのは自分だが、いざやってみると少し気恥ずかしいような気がした。


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