これから
雨の中、爆豪と二人びしょぬれになって山を下りるころには、さすがの灯水も「バカか自分は」と思わずにはいられなかった。
まだまだ冷える梅雨の季節、雨に濡れた体に風が吹くと寒い。一応、灯水の傘に再び二人は収まっているが、もはや意味はない。
体温調節が可能な灯水はまだいいが、寒さに弱い爆豪が心配だ。
「爆豪君、大丈夫?」
「あ?心配されるようなことじゃねぇわ」
「だって寒いの弱いじゃn「弱かねぇわクソが!!」
食い気味に否定されるが、まぁ嘘だろう。ここから冷房の効いた電車に乗って家に帰るのはつらいのではないか。
そう思っていると、ふと駅前で爆豪は足を止めた。大きくはないこの町の駅、ロータリーに止まっている普通の車は、灯水も見たことがあった。
「あれって…」
「…あのババア……」
低い爆豪の声が聞こえた直後、車から颯爽と女性が現れた。爆豪によく似た母親、光己だ。
「やだ、傘忘れて相合傘とか青春じゃない!」
「なんでいんだよ!」
「梅雨に傘忘れたバカ息子のために迎えに来てやったんじゃない!てかなんで二人ともそんな濡れてんのよ!?」
二人のところに来た光己は、灯水が挨拶するのを待たずにまくしたてた。爆豪はうっとうしそうにするのを隠さない。
「こ、こんにちは…」
「こんにちは、灯水君。てかひょっとして、うちの子と相合傘したばかりに濡れちゃった?」
「あー…」
まさか二人で子どものように騒いでいたらこうなったとは言えず言葉を濁すと、まるで爆豪のせいという光己の言葉にあいまいに返したように見えてしまった。
光己はすぐに爆豪をひっぱたく。
「こんのバカ息子!灯水君に迷惑かけて!」
「かけてねぇっつの!!」
「かけてんでしょ!!」
再びこぶしが振り下ろされる。光己は爆豪のことは気にせずこちらに体を向けると、とたんにすまなさそうにした。
「ごめんね、迷惑かけちゃったわね。よかったら、うちに寄っていきなさいよ、制服乾かさないと」
「いえ、そんな!俺は個性でどうとでもできますし!」
「大人にもメンツってのがあんのよ、素直に甘えてくれると嬉しいわ」
そういう言われ方をされると反論できない。爆豪もぶすっとはしているものの、言い返すことはなかった。
「じゃあ、お願いします」と言うと、光己はにっこりと笑ってうなずいた。
***
そうして、灯水は爆豪の家にやってきた。住宅街の中の大きな一軒家だ。外観だけは以前に山登りの際に見たことがあったが、お邪魔するのは初めてだ。
中に招かれると、上がる前に光己が持ってきたタオルで軽く濡れたところを拭く。その間に、光己は洗濯したらしい爆豪の服を持ってきた。
「服貸してあげるから」
「なに勝手なことしとんだ」
「お父さんの貸すわけにもいかないでしょ。あんたは自分で用意しなさいよ。着替えたら制服持って来て」
「わ、ありがとうございます」
爆豪の部屋着一式を借りて、灯水は玄関を上がる。爆豪に連れていかれたのは爆豪の寝室で、そこも広くきれいな部屋だった。
「なんかイメージ通り」
「じろじろ見てんじゃねぇ」
「ごめんて」
適当にいなすと、灯水はさっさと着替える。爆豪も自分のクローゼットから服を出す。
「シャワーしておいで〜」
すると、階下から光己の声が響いてきた。どちらに向けて言ったのかはわからない。だが、ここは先に爆豪を通すべきだろう。
「爆豪君先に行っておいでよ、俺は自分で乾かしたし」
「…言われんでもそうするわ」
そう言って爆豪は着替えずにそのまま階下へ向かう。部屋を出る間際に、灯水から制服をぶん取って持って行ってしまった。礼を言う間もなかった。
いちいち不器用だな、とは思うだけで、とりあえず灯水はベッド脇のカーペットの上に座る。
「…クラスメイトの家に上がるって、実は初めてかも」
中学の友人関係は、表面上のものだけだったので、放課後に家に行って遊ぶというようなことはしなかった。高校になって、初めてこういうことをするのだ。