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そんなこんなで、なぜか爆豪の家に泊まり、なぜか同じベッドで寝ることになった灯水。ベッドは広く、二人で横になっても大丈夫そうではある。
光己が残していったカレーをいただき、仕事から帰宅した爆豪の父親に挨拶をして、寝る支度をすれば、あっという間に二人はベッドの前に並んで立っていた。


「…狭いからお前奥行け」

「あ、うん」


特に反論する気もなく、灯水はベッドの奥で横になる。爆豪も隣に入ってきて、二人はもぞもぞと掛布団の中に入った。
すぐ左側に爆豪の低めの体温を感じて、暗闇の中で眠りにつくのは、あの山登りのときを感じさせる。

思えば、なんだか二人の関係性は変だ。


「…なんかさ、俺ら、変な関係だよね」

「あ?」

「普通の友達ってやつはさ、だんだん話すようになって、だんだん一緒にいる時間が長くなって、それから、互いの家に行ったり、泊まったり、どっか遊びに行ったり、泊りがけでどこかに行ったりするわけじゃん?俺ら特に話すわけでもないのに、泊りがけで登山して家に泊まって、しかも同じベッドで寝てる」

「まるで普通の友達ってのがいねぇみてぇな言い方だな?」

「………言われてみれば」

「A組連中が聞いたらショック受けそうだな」


鼻で笑う爆豪。だが言う通り、無意識に自分には友達がいないと思っているような気がした。
A組のことは好きだ、だが、彼らを友達と呼んでもいいのか分からないのだ。

なぜなら、灯水はこれまで、まともな人付き合いなどしてこなかった。だから、自信をもって友達と言える関係に実感がともなわないのだろう。


「…切島君たちのこと、友達って呼んでいいのかな。俺のこと友達って思ってくれてんのかな」

「知らねぇわクソが」

「…なんか、こんなこともわかんないとか俺ほんと…」

「うじうじしてんじゃねぇようぜぇな」


相変わらず辛辣な言葉が隣から返ってくる。だがその方が楽だ。気を使われる方がつらいし、いたたまれない。


「んなこと考えてる暇あんならこれからのこと考えろや。これから、友達だっつー確証が持てるように積極的に行動すりゃいいだけだろ」

「…これから」


しかし同時に、爆豪はこうして核心を突く言葉をくれる。気を使っていないからこそ、それはまっすぐ届くのだ。
これからやればいい、というのはとても明快で、それでいて前向きだ。確かに、灯水は過去を向きすぎているのかもしれない。
もう、焦凍は前を向いている。過去から解き放たれつつある。

自分をなくしたなんて思っていたけれど、爆豪はそんな大層なことではないと気付かせてくれたし、これまでの空っぽの自分で過ごしてきた中で培うことができなかった人間的な部分も、これからやればいいだけだと教えてくれた。
あまりにも単純なことだが、そんなことに気づけないくらい、灯水は様々なことに囚われたままだったのだ。

なんだか、爆豪のそばにいると、息がしやすい。いろんなしがらみから放たれて、自然体でいられる。


「…俺、もっと爆豪君と仲良くなりたい。ずっとべったりする気もないけど、一緒にいる時間をもうちょっと長くしたい。いろんなこと話してみたいし、いろんなこと知りたい」

「……なにきめぇこと言ってんだ」


思ったままに言うと、爆豪はちょっと引いたように言った。そんなあからさますぎるところも、嫌いではなかった。
灯水は左隣にいる爆豪に、初めて視線を向けた。それを感じたのか、爆豪はあおむけの姿勢のまま、目線だけこちらに寄越す。


「…だめ、かな」

「………はぁ、」


爆豪は少し考えてようにすると、溜息をついた。そして、反対側を向く。


「…勝手にしろ」

「…、ありがと」


そんなぶっきらぼうな許容がたまらなく嬉しくて、灯水は安心して目を閉じた。


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