昼休み
「これから確証が持てるようにすればいい」という爆豪の言葉は、友人というものへの実感を持てていなかった灯水にとって、実に明瞭な答えだった。それでいて前向きになれる、ぶっきらぼうだがまっすぐな言葉だと思う。
これからやればいいというのなら、まずは爆豪からがいい、そう単純に思った灯水は、さっそく翌日からやってみることにした。もしかしたら嫌がられるかもしれないし、爆豪はそういうのをうっとうしく感じるタイプのやつだと分かってはいるが、やらずにはいられなかった。
「おはよ」
朝、登校するなり、葉隠の席が空いているのを確認してそこに横向きに座る。すでにその後ろ、今は右側にいる爆豪は、少し面食らったようにした。
「…んだよ」
「別に?言いに来ただけ」
「あ?うぜーな」
ちょっといやそうにしていた爆豪だが、思ったよりも拒否反応がなかった。言葉のわりに表情は穏やかで、机に頬杖をついて溜息でもつきそうな、そんな呆れ顔だ。あの爆豪の家の夜に話していたことを実践しているのを見て、本当にやってんのか、とでも言いたげだ。
「爆豪君て、朝けっこー強い?」
「…弱くはねぇ。ランニングしてっしな」
「そうなんだ、でも朝寒くない?大丈夫?」
「てめぇのその、俺が寒さに弱いキャラはなんなんだ」
どうしても爆豪は寒さに弱い、というイメージがついてしまった灯水に対して、今度は明確に嫌そうに、というかキレる爆豪。
「え、ちがうの?」
「ちげぇっつってんのを聞かねぇよなぁてめぇはよォ」
「てっきり弱いもんだと」
「あんときは軽装だったからだ、ちゃんと装備してりゃ寒くねぇわ」
「それってみんな同じじゃ…」
「うるせぇ」
防寒すれば寒くないのは当たり前のことだ、とそれをのたまう爆豪に指摘すると、爆豪は問答無用ででこピンをかましてきた。普通に痛い。灯水は額を抑えて「理不尽」と軽く睨むが、爆豪はハッと鼻で笑うだけだ。
それにしても、やはり爆豪は寒さに弱いらしい。また一つ、近づけたような気がしたが、それを言ったらてこピンではすまなさそうなので黙っておくことにした。
***
昼休みになると、灯水はすぐに爆豪のところへ向かった。すでに食堂へ向かおうと席を立っていたので、さっと近付いて声をかける。
「一緒に食べようよ」
「あ?断る」
すげなく返した爆豪だが、それくらい織り込み済みなので気にしない。すたすたと歩き出す爆豪の横をキープしてめげずに話しかけた。
そんな様子に、葉隠や緑谷が不思議そうにしているのが分かった。
「別にいーじゃん、減るもんじゃないし」
「減るわ。俺の貴重な一人の時間がな」
「うわ、普通にド正論…」
「ハッ」
「でもほら、逆に考えれば俺との時間が増えるよ」
「なんでてめぇとの時間にメリットがある前提なんだよクソポジティブか、しょうもないことでウジウジするくせによォ」
「爆豪君のおかげだね。だから一緒にいたいんだけど…ダメかな」
断ったわりに振り払うでもなく、2人はすでに廊下を食堂に向かう生徒の群れの中で並んで歩いていた。
昨晩のように、灯水は爆豪の顔を覗き込むように伺う。ちら、と爆豪はこちらに目線を下げ、すぐに前に戻した。
「…チッ、あざてー……」
「へ??」
「つかなんでまだ俺のカーディガン着てんだよ」
「半袖だから使わないのかなって思って、まだちょっと使わせてもらってた。爆豪君の匂いするから落ち着くんだよ」
先日借りた爆豪のカーディガンは、まだ灯水が使用している。本当は今日返す予定だったが、爆豪が半袖シャツ姿だったこともあり、勝手に延長していた。洗って返すようなものでもない、帰り際に返すつもりだ。
延長しているのは他でもない、爆豪の甘い匂いがするからで、それに包まれている心地よさを手放しがたかった。
「…っ、だぁ〜くっそ、ッとにてめぇは…!」
するとなぜか頭を抱えて唸る爆豪。何事かと心配になるが、絞り出すように「…邪魔だからしばらく保管してろ、てめぇは今日からハンガーだ」と言ってきた。
「え、意味分からん」
「うるせぇとりあえず着てろや!」
「まぁ爆豪君がそう言うなら…へへ、ラッキー」
袖が余った手で口元を隠そうとしても、きっとニヤけているのを隠しきれていないだろう。しかも、袖から爆豪の匂いが強くしてくるのだから無理に決まっている。
そんなところを見た爆豪はさらに唸り声を上げていた。