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食堂に着くと、食券機が空いていたので席取りはせずに買ってしまうことにした。吹き抜けの空間にはざわめきが満ちているが、湿度も高くどんよりとした日だからか、心なしか抑えめだ。
爆豪は麻婆豆腐を買っていた。灯水はいつもの蕎麦にしようと思ったが、なんとなく、爆豪と昼食を取るのだというのが意識されて、今までと違うことがしたくなった。
そして初めて、灯水は温玉のせ唐揚げ丼という蕎麦ではないメニューを選んだ。
すぐに用意されたトレーを持って、爆豪と向かい合うように適当なテーブルに座る。
「いただきまーす」
声こそ出したのは灯水だけだが、爆豪も軽く手を合わせて食べ始めたので、やはり育ちが良いのだなと感じる。麻婆豆腐は辛そうだが、湯気の立つそれはとても美味しそうだった。
もちろん、温玉のせ唐揚げ丼も見るからに食欲をそそる。
「俺初めて蕎麦じゃないやつ頼んだ。爆豪君はいつも同じやつ?」
「むしろなんで同じモン毎日食うんだよアホか」
「なんでだろうなあ…あ、でも辛いの毎日はきつい」
「あ?いけんだろ」
「爆豪君辛いもの好きなんだ」
「おー」
「いたずらにココイチのカレー辛さマックスにしてそう」
「辛けりゃいいってわけじゃねえだろが」
「それはある」
先ほどもそうだが、意外にもきちんと返してくれるので会話が続く。とはいえ、互いに食べながらなのでテンポはゆっくりで途切れ途切れだ。
「にしても、温玉ってすごい特別感ない?なんでも美味しく感じられる」
「ガキかよ」
「あ、ガンギレ卵ちゃんには分からないか」
「ぶっ殺すぞオイこら」
すぐに暴言となる爆豪だが、灯水もナチュラルに煽ってしまう。打てば響くからだろうか。
「焦凍はさ、いつもあったかくない蕎麦頼むんだよ。でも俺せいろ毎日とかあり得ないなって思っていつも温かい方の蕎麦にすんの」
「今年上半期で1番どうでもいい情報だな」
「ちなみに爆豪君はあったかい蕎麦と冷たい蕎麦どっちが好き?」
「麻婆茄子」
「うわ、会話のキャッチボール投げたら
終末高高度防衛ミサイルで撃ち落とされた気分」
「いやてめぇのボールは弾道ミサイルか。んでさっきから自分をしれっとヨイショしてんだよ」
「くらえ
大陸間弾道ミサイル!」
「シシトウ単体で寄越すんじゃねえ」
「苦手だし…あ、代わりに麻婆一口ちょーだい」
「厚かましさが留まるところを知らねえなカス」
「いーじゃん別に減るもんじゃないし」
「お前の脳みそは豆腐か?どう考えても物理的に減るだろうが死ねクソが」
「マジか〜、俺、減るもんじゃないしって魔法の言葉だと思ってたのに2回も封じられたわ。やるじゃん」
「だッからなんでてめぇが上からなんだよ!てめぇのICBMでも永遠に咀嚼してろや!」
頭の悪い会話を続けていると、ついに爆豪がキレた。レンゲに灯水が寄越したシシトウと麻婆を合わせて乗せると、おもむろに灯水の頬を鷲掴み、口の中にねじ込んできたのだ。
随分と情緒のカケラもない「あーん」である。
「むぐぅ…ッ!?」
「ハッ、ざまぁねーな」
「ちょ、待っ、かっら!ハァ!?辛いマジなにこれ、ちょ、うっわ!」
さらに、単純に辛いシシトウに加えて辛い麻婆豆腐もコンボを決めてきたために、口の中が大炎上している。どうやら麻婆豆腐自体を辛くオプションで注文していたらしい。
もはや涙目になって、とりあえず口元を手で押さえる。カーディガンの袖から香る爆豪の匂いも今ばかりは憎たらしい。
「このやろ……」
必死に涙目になりながら睨み付けると、爆豪はぴしりと動きを止める。そして、ゆっくり目を逸らして、顔を伏せた。耳元が赤い気がするがどうしたのだろうか。
「…?爆豪君?」
「…んでもねぇよ……」
「あ、そうなの?じゃあ水もらうね」
「あ?」
なんでもないとのことなので、爆豪の水を拝借した。灯水のはもう空だったのだ。勝手に爆豪のコップから水を飲むと、再び爆豪の米神がひくつく。
「てめぇの神経はザコなのか図太いのかどっちなんだよ……」
「どうせ脳みそもメンタルも豆腐ですよ〜」
「嘘つけ」
と言いつつ、きっと爆豪がいなければこんな元気ではいられなかっただろう。紛れもなく、爆豪のおかげで、灯水は今、こうして笑っていられる。
やはり爆豪と一緒にいるのは息がしやすいな、と灯水は目の前で呆れている顔を見て思ったのだった。