2


そんな二人を、慌てて切島が諫める。二人の間に割って入り距離を取らせた。


「まぁまぁ、んなキレんなって。にしてもあれだな、ほんとに爆豪と灯水仲良くなったんだな。泊まりとか」

「意外な組み合わせだねえ」


葉隠は見えないながらも楽しげだ。暴言ばかりの爆豪と、人当たりの良い灯水という組み合わせが面白いらしい。


「…灯水は、俺のだ」


なんとか切島や葉隠が空気感を柔らかくしようとしてくれたが、焦凍はそれを壊すような冷えた声で言った。その本気に気付いたのか、爆豪も舐めた表情から不快そうなものに変わる。


「あ?よく言えたモンだな」

「どういう意味だ」

「俺は体育祭で言ってやったけどなァ?『どこ見てんだ』って」

「…?」


疑問符を浮かべるのは周りだけでなく焦凍もだ。その様子に、爆豪は再び鼻で笑うが、それは完全に嘲笑だった。


「てめぇがそんなんだから、こうなったんだろ?」

「抽象的な言い方してんじゃねえ。何が言いてえんだ」

「クソデクにきっかけもらって、ハイ満足です、ってか?何も見えてねえままでよォ。それで1番大切だなんてよく言えたな」


灯水はそこで爆豪の意味するところを理解した。同時にサァッと体の中が冷えるような感覚になる。

爆豪は、灯水の絶望に気付かないまま、変わって進んでいく焦凍のことを指摘しているのだ。もちろん、焦凍のためだけに生きてきた灯水が今どうなっているかなど、焦凍は知るよしもない。そうしてきたのは灯水だ。
しかし爆豪は、灯水のことを何も見えていないまま大切だと述べた焦凍を責めている。


「爆豪君、いいから…!焦凍のことそんな風に言わないで、俺の問題だ」

「理解しようとすりゃ気付けるだろ。その程度なんだよ、お前の葛藤なんざ。それすら気付けねえ舐めプが。理解しようとしてねえんだよ」


罵詈雑言は控え目で、爆豪は淡々とそう言った。焦凍は当然、理解できていない。それが余計に焦凍を苛立たせているようだった。灯水と爆豪の間だけで意思疎通が行われていることも神経を逆なでしているはずだ。


「さっきから何の話してんだよ。灯水」

「えっ、いや…」


できれば知られたくない。焦凍が緑谷との戦いをきっかけに過去から未来を見てくれるようになったことは、本当に嬉しかったのだ。その足を止めるようなことはしたくない。
そんな灯水の気持ちも透けていたのだろう、爆豪はフンと鼻を鳴らして、そして、おもむろに灯水を引っ張ってきた。突然のことに抗いようもない。


「うわっ!?」

「灯水、」


焦凍の手は宙を切り、灯水は背中から爆豪にぶつかる。
その直後、後ろから爆豪の腕が回り、首元を締めるように抱き締められた。思わずその太い腕を掴んでしまうが、驚いてしまっていて添えるような程度だ。


「ちょ、なにっ?」

「受精卵から出直してこいや」


灯水のことなど気にも止めず、爆豪は右手で中指を立てて焦凍を煽る。左手は依然として灯水を拘束していた。


「なんか知らねえけど、体育祭ツートップが3位を取り合ってるぞ」


諫めるのを諦めた切島が呆然と言えば、瀬呂と峰田が引いたように同意を示した。


「イケメンとイケメンがイケメンを取り合う図か」

「しかも全員男とか救いがねーし、なんなら二人は実の双子だぜ」


外野のことはどうでもいいらしい焦凍と爆豪は、灯水を挟んで睨み合い、一触即発だ。
灯水はといえば、突然後ろからも正面に回った腕からも爆豪の匂いがしてきて完全に包まれており、何だか気恥ずかしくなってきた。

離して欲しいがこのままでもいたいという相反する気持ちになってしまい、爆豪の腕を掴む両手に力はない。
爆豪に借りたままのカーディガンの余った袖から、僅かに覗いた指先が爆豪の筋の浮かんだ腕に触れている。そこに熱があるようだった。焦凍の睨みが増すと腕に籠もる力も増して、それに合わせて腕の筋肉が動くのが肌の下に感じられる。


「ば、くごう、くん…」

「あ?…って、おまえ、」


絶対顔が赤くなっているという自覚があった灯水は、それを見られたくなくて、爆豪の半袖に覆われた二の腕に顔を埋めるようにして隠す。しかし熱い耳でもう隠せていないだろう。なんならますます匂いが増してしまい、落ち着くはずのそれが今は恥ずかしさを助長させた。


「…おれ、今日は切島君たちと帰る……」


爆豪の腕の中でそう言うと、切島が「そうだな、それがいんじゃね?今ツートップ揃って再起不能だから」と言いながら灯水を解放してくれた。
固まってしまった二人を放って、集まっていた葉隠や瀬呂も加えて皆で帰ることになる。

ちなみに、その後焦凍は緑谷と飯田と、爆豪は一人で帰ったそうだ。


20/65
prev next
back
表紙に戻る