本気
焦凍と爆豪が一触即発となった日から1週間ほど、雄英はテスト期間を控えて徐々に期末ムードとなってきた。
あれから、灯水は焦凍に対して結局事情は話さないまま今に至る。あのあと帰宅してから問い詰められるかと思ったのだが、冷静になった焦凍は一言謝るだけだった。
思わず、「何も聞かないの?」と聞いてしまったが、焦凍は少し寂しそうな顔で笑った。そして、「灯水が言ってくれるまで待つ」とだけ言ってくれた。
これがもう少し前だったら問い詰められていたかもしれないが、緑谷たちと出会ってともに過ごす中で、人を尊重することを具体的にどうやるのか学んだらしい。気遣いのできる緑谷や麗日、飯田のおかげだ。
それは同時に、灯水がいなくてももう焦凍は大丈夫で、灯水への依存をなくして一人で立ち上がり始めたのだと実感させた。
あれほど一人で行くことを渋っていた母への見舞いもそうだ。
ただ、前ほどそれを実感しても絶望的な気持ちにならないのは、間違いなく爆豪のおかげだった。
すっかり期末の話で盛り上がる昼休みのA組、優秀な緑谷や飯田、焦凍は上鳴たちを励ましながらその言葉で上鳴たちを抉っていた。
それを横目に、切島が爆豪に勉強を教えて欲しいと頼んでいる。その後ろでは八百万の周りに尾白たちが集まっており、あちこちで盛り上がっていた。
勉強は一人でもできる。成績だって、中間では5位だった。申し分ないのは分かっているのだが、灯水はせっかくなら、誰かと勉強会をするというやつをやってみたい気持ちになった。
灯水は立ち上がると、切島と爆豪のところへ向かった。
「ね、俺も一緒にいい?」
「あ?お前は必要ねぇだろ」
「いいじゃん爆豪!2位と5位と一緒とか超心強えし!」
切島はすぐに頷いたが、爆豪は拒否というより、成績優秀者の灯水にはこんなことをする必要はないだろうと訝しんでいた。それも当然だ。
「ほら、半端に成績良いと上目指すの大変てか…」
「なら1位に聞いた方がいいんじゃねえの」
「…、まぁ、そうだけどさ……」
なまじ爆豪が拒否を浮かべているわけではなく、単に疑問に思っているだけであるからこそ、正論を言われるとどうしようもなかった。
爆豪がこれで嫌がっていたら切島もフォローしただろうが、切島も「確かに、わざわざ爆発さん太郎じゃなくてもいんじゃね?」と首を傾げた。爆豪は切島に肩パンをかます。
これはいっそ、正直に言ってしまった方が早いか、と考えてしまったあたり、灯水も焦凍と双子なのだといったところか。
「……ほんとは、爆豪君と一緒にいたいってだけ、って言ったら嫌かな」
それを言った瞬間、ぎしっと音を立てるかのように爆豪が固まった。切島も、一瞬固まってから頬をかく。
「あー…俺邪魔か?」
「?なんで?切島君が最初に声かけたんだし」
「やっぱ無自覚か〜!大変だなァ爆豪」
切島は快活に笑うと、爆豪の肩をバシバシと叩く。爆豪はその衝撃で目覚めたのか、長いため息をついた。嫌だったのだろうか。
「……ごめん、さすがに鬱陶しいか」
「ちげぇわカス……はぁ、おいクソ髪、察してんなら話は速ぇ。こいつの外堀埋め立てて舗装し殺すから協力しろ。それが対価だ」
「合点承知!任せとけ!」
どういうことか分からずにいると、爆豪はようやくその切れ長の目で灯水を見上げた。
「おい、勉強会の件は構わねえが、その代わり勝負しろ」
「勝負?」
「総合点で俺が勝ったら言うこと聞けや。んで、お前が勝ったら俺が言うこと聞いてやる」
「……面白そう。うん、いいよ」
そういえば中学の頃、クラスメイトたちがよくやっていた。灯水はいつも1位だったから関係がなかったのだが、爆豪と勝負するなら面白そうだった。
切島が「よくやるぜ……」と爆豪を呆れたように見ていたことには気付かず、灯水は二つ返事で頷いた。