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早速次の休みに、3人で集まることになった。雄英近くのファミレスを指定されたが、思えば私服で会うのは登山以来だった。普段制服なので新鮮な気分になる。
もう日差しは夏のそれだが朝晩はそれなりに気温が下がる時期、灯水はティーシャツにジャケット、ジーンズの簡単な服装で出掛ける。
待ち合わせ場所の駅に着くと、すでに短パンとティーシャツの切島、赤いシャツに黒いジャケットとパンツの爆豪がいた。遅刻ではないはずだが、2人とも早い。
「ごめん、待たせた」
「いいって!にしても今日もあちぃな!あ、でも灯水は涼しそうだな」
暑そうにする切島だが、今日は左程でもない。爆豪もまだ重ね着をしている。
灯水も、寒暖差のある季節はそれに合わせて体温調節をしていると内臓に悪影響が出るため、自然に任せている。
「季節の変わり目は、個性の調節してないんだよね。一日のうちに何度も違う温度で調節すると、内臓に悪影響だから」
「なるほどな〜、万能でもねぇか、さすがに。十分だけど」
「おら、はよ行くぞ」
「おう、じゃあ行こうぜ!」
切島は明るく言って歩き出す。いつもは前を歩くなと煩い爆豪も、場所を切島に任せたため先導させていた。
「爆豪君さ、私服格好いいよね」
「普通だわ」
「ちょっとチンピラ感増してるけど」
「ふ・つ・うだわ」
″ふつう″の3文字に合わせてガスガスと小突いてくる。この前切島に仕掛けていた肩パンとはまったく異なる、細やかなものだった。明確に加減されているのが少しくすぐったいような気がした。
「つかよ、ほんと仲良くなったよなお前ら。意外な組み合わせだけど、気ィ合ってんじゃん」
「え、そう見える?」
灯水は爆豪のそばにいて気が楽だと感じるが爆豪はそうか分からない。切島に客観的に言われるのは少し嬉しかった。
爆豪はこんなことを言われれば不快感も露わに怒鳴りそうだが、意外にも何も言わなかった。
ファミレスに入ると、切島の向かいに爆豪と並んで座った。まずは軽食とドリンクバーを頼む。ランチタイムを避けたため居座っても文句は言われないだろう。
男子高校生らしく一瞬で食べ終えると、爆豪は紅茶を入れたカップを持ってきた。切島はメロンソーダ。なんだかイメージ通りだった。
灯水も冷たい緑茶を持ってくると、「灯水っぽいな」と切島は笑った。
そうしてやっと勉強会が始まったが、爆豪の苛立ちながら切島に怒鳴りつつ教えるその言葉は簡潔で分かりやすい。
「だァからhereは副詞だっつったろうが!」
「副詞……」
「副詞は動詞を修飾するんだよ。飾る言葉だから名詞じゃないでしょ?」
「目的語になれんのは名詞だけだ!んならgoに対してhereは目的語じゃなく修飾語として機能すんだ分かったか!」
灯水もフォローを入れていれば、切島は感動したように2人を見遣る。
「すっげえ分かりやすいな!」
「ったりめーだろ!ついでに例文としてI am here.って覚えとけ!ホラー映画でよく出て来んだよ!いいな!」
「アフターケアもばっちりじゃん…」
言葉こそ荒いが、話し方や例文の引用の仕方などは間違いなく頭の良いヤツのそれで、爆豪の教え方は確かに上手かった。さすが才能マンといったところか。
そうやって勉強会を続けるうち、エアコンの寒さが気になるようになった。初夏はエアコンが効き過ぎるのだ。ちょうど席がエアコンの真下というのもある。
一応ホットティーを持ってきてはいるが、冷めて苦くなってしまった。
個性を使うのは避けたいため、もぞもぞと動いてみるが変わらなかった。
「……ちょっとどけ」
すると、爆豪がおもむろに立ち上がった。通路側にいた灯水はいったん立ってどいてやる。爆豪がトイレに向かってから席に戻り、紅茶を一口飲んで苦さに顔をしかめた。ついでに別の飲み物を取ってこようかと思ったが、爆豪が思いのほか早く戻ってきた。
「めんどくせぇから詰めろ」
「え、うん」
「あと鬱陶しいからこれでも着てろや」
戻ってきた爆豪は灯水を窓側に詰めさせると、被せるように乱雑に自身のジャケットを寄越してきた。
「わ、ちょ、爆豪、くん」
「うるせぇ、気ィ散るんだよ」
どうやら灯水が寒がっていたことに気付いていたようだ。窓側にズレたことでエアコンの直撃は免れるようになり、被せられたジャケットは暖かい。
例のカーディガンのときのように、爆豪の匂いに包まれて無意識に安心するのを感じた。
きっと爆豪は、この時期は灯水が個性による体温調節ができないと言ったことを覚えていたから、こうして配慮してくれたのだろう。
普段はこんなこと絶対しなさそうな、クソ下水煮込みとまで言われる爆豪が、こうやって灯水には優しくしてくれることがなんだか嬉しくて、灯水は体温とは関係なく心が温まるのを感じた。
「……ありがと」
「フン、期末ぜってー負かす」
目線こそ合わせなかったが、ぶっきらぼうに言った言葉は存外穏やかで、灯水は小さく笑ってシャーペンを取った。