期末試験


灯水はバスに揺られながら、沈黙が痛いほどに満ちる車内から外を眺めていた。


「…しりとりでもする?」


気まずそうに言ったオールマイトに対して、緑谷も爆豪も、反応することはなかった。


***


筆記試験を無事に終えて、ヒーロー科は実技試験に入った。
事前の情報では、ロボット相手の戦闘と聞かされていたのだが、どうやら昨今の情勢を鑑みて対人戦闘となったらしい。

基本的には2対1でヒーローたる教師との戦闘ということだが、灯水は緑谷と爆豪の3人チームに組み込まれた。そして、相手はなんと、オールマイトだ。


幼馴染みだという緑谷と爆豪は犬猿の仲というか、やたら爆豪が緑谷に突っ掛かる。緑谷も、強い個性と精神力、学力を持つ優等生なのに、爆豪に対して必要以上に萎縮している。
そんな歪な2人のところになぜ灯水が組まれたのか、正直分からない。だが相手が平和の象徴であるからには、3人でも足りないだろう。

試験は各グラウンドで行われ、相手を倒すかゲートを1人でも脱出するかのどちらかがクリア条件となる。

グラウンドβの正面でそう説明を受けてから、先にオールマイトはグラウンドの中に入っていった。腕につけた重しなど、あの筋骨隆々とした男には些細なブレスレットにしか見えない。

バスの車内に続いて、グラウンドには沈黙が立ちこめる。しばらくしてから、3人もグラウンドに入ることになった。商業区画を模した街並みの大通りを歩き始めた直後、試験開始のアナウンスが流れる。


「……で、どうすんの」


さすがに沈黙のまま歩くことに耐えかねた灯水は、前を歩く緑谷、さらに前を行く爆豪に声を掛ける。


「オールマイト相手に戦闘なんて無茶だ!」

「あァ!?ぶっ倒した方がいいに決まってンだろが!!」

「せっ、戦闘は何があっても避けるべきだって!」


緑谷はいつもと異なる声音で爆豪に必死に言うが、爆豪は取り付く島もない。


「終盤まで俺とメッシュの範囲攻撃で翻弄して、疲弊したとこを俺がぶっ潰す!!」


萎縮してしまった緑谷は言葉に詰まる。嫌な空気だ。いつもは爆豪の近くは過ごしやすいと思う灯水だが、爆豪の緑谷へのいらだちが強すぎて居心地が悪い。

いずれにしても、逃げるだけ、戦うだけという二元論ではオールマイトには立ち回れないだろう。実力差があり過ぎる。


「オールマイトを……な、なんだと思ってんのさ…いくらハンデがあってもかっちゃんがオールマイトに勝つなんて、」


しかし緑谷もオールマイトに対して及び腰過ぎる。いくら憧れているからとはいえ、あくまで試験だ、こちらを試すことがオールマイトの行動基準なのである。それならば、ある程度戦って距離を作ることがこちらの第一条件ではないのか。

すると、緑谷の言葉がついにかんに障ったらしい爆豪が、緑谷をおもむろに殴り飛ばした。篭手で思い切り顔を殴ったのだ。


「ちょっ、」

「これ以上喋んな、ちょっと調子いいからって喋んなむかつくから」


怒鳴りもせず、押さえ込むように低く言ったその言葉は、圧倒的な憎悪に塗れている。2人の関係がどれだけ拗れているのか、灯水は言葉を失った。


「ごっ…試験に合格するために僕は言ってるんだよ聞いてってかっちゃん……!」

「だァからてめぇの力なんざ合格に必要ねぇっつってんだ!!」

「怒鳴らないでよ!!それでいつも会話にならないんだよ!!」


その瞬間、市街地の通りの端から、猛烈な爆風が吹き付けてきた。道に面する建物の表面を砕き、看板を破壊し、街灯や樹木を引き抜き、歩道橋をもねじ曲げ、アスファルトを引き剥がす。
その衝撃波によって3人とも体勢を崩す。

それでもなんとか爆風の方向を見据えると、風がやんで土煙が漂う中を、とてつもない、威圧感の塊が歩いてくる。


「町への被害などクソくらえだ。試験だなんだと考えてると痛い目見るぞ。私は敵だ、ヒーローよ。真心込めてかかってこい」


23/65
prev next
back
表紙に戻る