I am who I am
2人がいなくなり、通りには灯水とオールマイトの2人きりとなった。ここにきて、まさかの1対1だ。
「……さて。いよいよだな、轟少年兄」
「…そう、ですね」
灯水はそっと路地裏を見遣るが、もう気配はない。
「負ける方がマシだなんて君が言うなよ」という緑谷の言葉は、昔から親交があるからこそ出て来た言葉だ。何か、思うところがあるのだろう。
灯水はそんなに爆豪のことを知らない。昔のことなんて知らないし、こんなにも感情を乱したところも見たことがなかった。
幼馴染み、とはそういうことなのだろうか。
「どうしたんだい?そんな顔をして。君にしては珍しいじゃないか」
「え……どんな顔ですか」
「なんというか……嫌そう、というか……嫉妬、かな?」
「……嫉妬」
オールマイトは突然そんなことを言ってきた。思い当たることがなく目をパチパチとさせると、オールマイトは試験中にも関わらず話を続ける。
「そうだ。実は相澤君から、最近君と爆豪少年の仲がいいと聞いていてね。この編成もそれによるんだが……幼馴染みの緑谷少年に嫉妬しているんじゃないか?」
「なるほど……」
自分のことなのに、なぜか納得してしまう。確かに、そう言われればそうなのかもしれない。灯水の知らない爆豪をたくさん知っている緑谷が、羨ましいのだろうか。
「…オールマイト。緑谷君は、特別ですか?」
「どういうことだい?」
ポツリと漏らしてしまった灯水の言葉に、オールマイトは首を傾げる。
「オールマイトに気に掛けられて。強い個性を随分後から持って。そして、焦凍のことを救けて、体が勝手に動くから人を救うんだって言ってました。爆豪君とも拗れてはいるけど、互いに理解が深いからああなるわけで……」
灯水とは違う。緑谷は、天性の人を救う才能のようなものがある。
それで、焦凍を救ってくれたのだ。USJのときは、オールマイトをも助けようとしていた。
「確かに彼は、本能で人を助けようとする。そこはヒーローとして大切なことだ。でも、君のように冷静に考えて状況を捉えながら戦うことも大事なことだよ。別に、緑谷少年だけが特別なんじゃない」
「でも、焦凍のことを救い出してくれました。俺にはできなかったのに。爆豪君をあんなに揺さぶることだって」
「それは、どうしてか緑谷少年が轟家の事情を知ったからだ。救わずにはいられなかったんだろう。爆豪少年のことも、幼馴染みとして気に掛けるのは当然さ」
「…じゃあなんで、俺のことは、救けてくれなかったんですか……」
静かな廃墟に響いた灯水の小さな声に、オールマイトは息を飲んだ。
灯水も言った直後に、自分がなんと言ったか気付いて、咄嗟に口元を覆う。
今、自分は、なんと言ったのか。
「……そうか。君も、苦しんでいたのか…当然か、それなのに……誰も気付かなかったんだな……」
どこまでオールマイトが轟家のことを知っているのかは定かでない。だが、緑谷が焦凍を救ったということに疑問を抱いていないことからして、ある程度は把握しているようだ。
「職場体験で迷いが見られたというのも……そのせいだね」
「……俺は、焦凍のために生きてきたから…緑谷君に救われて、1人で前を向いた焦凍を見て、嬉しかったけど、どうやって生きていけばいいのか、分からなくなったんです。自分が、自分じゃなくなるみたいだった」
「すまない、誰かが君のことも気に掛けるべきだった」