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オールマイトは、まるで自分が経験したかのように顔をゆがめて苦しそうにしてくれた。灯水は周りに無意識にいい顔をしてしまうから、誰も気付けなくて当然だ。

いや、しかし、1人だけいた。
最初から灯水のことを、灯水より先に気付いていたヤツが。


「……いえ。爆豪君は、分かってました。家の事情知って、俺がどういう生き方してるのか知ったとき、『お前はそれでいいのか』って聞いてきたんです」

「彼がそんなことを……」


驚いたようにするオールマイト。灯水は、緑谷でも大人でもなく、他ならぬ爆豪が、灯水のことを引っ張り上げてくれたのだと、改めて実感する。


「体育祭のあと、爆豪君は、俺を登山に誘ってくれました。大した理由じゃなかったけど、そのときに、『大半の人間は生きることに大義なんてない』『その力で人を助けられない方がお前にはつらいだろ』って言ってくれて、俺の苦しみはそんな思い悩む必要があることじゃないんだって気付かせてくれました」


なんのために生きるのかが分からなくなった灯水に、そんなもの分かっている人間の方が少ないのだと爆豪は言った。
後悔先に立たずと言えど、ヒーローにならずに人をみすみす助けられなかったときを考えれば、灯水は明らかにそれは未来の後悔だと思えた。


「あのとき見た朝日は、俺にとって、それまで見たことのないくらい綺麗なもので…そのとき隣にいたのが爆豪君で良かったって思いました。そのあとも、爆豪君と一緒にいる時間は、なんだか息がしやすくて…すごく、隣にいることが、落ち着いたんです」


雨の日の帰り道にふざけてびしょ濡れになってしまったり、泊まったときに「これから友人関係を確たるものにすればいい」と前を向かせてくれたり、電車で痴漢から助けてくれたり。
数え上げればキリがないほど、爆豪は灯水のそばで、灯水を逐一、たまに少し乱暴に、救い出してくれたのだ。


「そばにいると落ち着いて、でもたまにドキドキして、優しくしてくれたことがなんか忘れられなくて。だからもっと一緒にいたいなって思いました」

「轟少年兄よ……それは、恋じゃないか?」


ちょっとだけ呆れたように、それでもほとんどが優しく、オールマイトはそう投げ掛けた。


「目線が合う、ふと距離が近くなる、体が触れ合う、そんな些細なことに心が動いてしまう。もっとそばにいたい、もっと知りたい、もっと知って欲しい、そんな感情も沸いてくるし、嫉妬だってする。そういうのが恋だ」


恋。自分とは無縁だと思っていた概念が降って沸いて、灯水は動きが止まる。


「……でも、俺も爆豪君も男です」

「この個性社会で男も女もあるか?それに、人を好きになるってのは、そういう、どうしようもないモンだ」


はっはっは、と笑うオールマイトに言われて、じわじわと、心の中に爆豪へ感じていた感情の名前が大きくなっていく。
漠然と抱いていた色々な感情は、もつれ合って1つにまとまる。

その正体を”恋”と呼ぶことに、灯水は違和感をまったく感じなかったし、すっきりするような気すらした。

そうだ、仕方ないのだ。こんなに灯水のことをそばで支えて救けてくれたのだ、好きになったって、しょうがないだろう。
この暖かい感情が恋だというのなら、灯水は、それを持つことができたこと自体、爆豪のおかげだと思えた。


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