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「……爆豪君のことが、好き」
そう呟いた瞬間、心の空になりつつあると感じていた器が、急速に満たされていくような感じがした。
それだけではない。これまで爆豪が気付かせてくれてきたことが、一気に、爆豪への気持ちとともに1つに収斂されていく。
灯水は、焦凍と比べて出来損ないだから今まで頑張ってきた。基本的に個性も人格も欠落していた灯水だったから、頑張らなくてはいけないのだと。
―――違う。
爆豪は、灯水が個性を使って誰かを救えない場面できっと後悔するヤツだと断じた。その根拠は、灯水が基本的に誰かを助けようとするからだ。
なぜなら、灯水は焦凍だけが家族に顧みられることになったときに焦凍を恨むことはせず、守って寄り添おうと決意した。それは焦凍を守ることに存在意義を見出す前のことであり、灯水は元から、焦凍を守るために動いたのだ。それこそが灯水の
原点であり、灯水が努力してきたのは出来損ないだからではなく、焦凍や家族を守るためだった。
灯水はその生き方のせいで、情緒も人格も不満足で、ろくに人付き合いもできないような生来の不誠実な人間だ。だから、切島たちにも作り笑いをしてしまう。
―――違う、違う。
焦凍が大切だった、冷を守りたかった、姉を大事にしたかった。
A組の実力を尊敬した、一緒にいて楽しかった、切磋琢磨できることが誇らしかった。
それはすべて、灯水が感じた紛れもない灯水の感情だ。
そして爆豪は、灯水が友人だと実感できないなら、これからできるようにすればいいだけだと言ってくれた。だから、灯水はもう、ありのまま接したいと思うし、そのためにまずは爆豪と一緒に過ごそうと動いた。
灯水は、自己を失って、生きる意味も存在意義もない、空っぽの人間だ。どんなヒーローになりたいのかも分からない、雄英ヒーロー科失格だ。
……―――違う、違う、違う!!
まっすぐ言葉をぶつけてくれた。灯水が気付けなかったことを気付かせてくれた。ぶっきらぼうでも、そばにいてくれた。口では否定しながらも、灯水をゆるしてくれた。匂いに落ち着いて、一緒にいると普通の男子高校生のようで息がしやすかった。
そんな時間をくれる爆豪が、好きだった。
「俺は、爆豪君が好きだ。この気持ちは、俺だけのものだ。だから、俺は空っぽなんかじゃない。A組のみんなと、ヒーローになるんだ…!」
灯水はずり、と足をずらして左腕と左足に神経を集中させた。左右はっきりしていないとはいえ、やはり氷結は左の方がなんとなく出しやすい。さらり、と風に揺られて赤い髪の束が揺れる。
「…オールマイト、1つ、最後にいいですか」
「なんだい?」
「俺は、轟少年兄じゃありません」
ぐっと力を込めて、灯水は個性を発動する。周囲の温度が下がっていき、足先と指先にエネルギーが蓄積された。それを、オールマイトに向けて放つ。
ニヤリと口元に、少し爆豪に影響された不敵な笑みを浮かべて。
「俺は、俺だ」