強くなりたい
全身に走った衝撃で息が止まる。ついで思い切り咽せる。
それでも助けなければならない、その思いだけで立ち上がろうもするも、街灯のフルスイングが当たった左足が言うことを聞かない。恐らく、折れていた。
ズキズキと熱を持つような痛みに脂汗が出る。
「ぐっ、はぁ…っ!」
腕が震える。なんとかオールマイトたちの方を見ると、爆豪の弱々しい手がオールマイトの腕を掴んでいた。
「…行けや、クソナード……折れて、折れて、自分ねじ曲げてでも選んだ勝ち方で……」
もう意識を飛ばす寸前だ。それでも、それは執念だった。
「それすら敵わねえなんて……嫌だ……!」
爆豪は、勝つために勝つのだ。それが爆豪にとって、何より大事なことだった。
大事な人の大事なものを、守れずに好きだなどと言えるものか。
緑谷がこちらに方向転換したのを見て、灯水も立ち上がる。力の入らない足を奮起させた。
「っと、行かせんぞ緑谷少ね、」
「どいてください、オールマイト…!」
緑谷は、思い切り憧れのヒーローを、殴り飛ばした。吹き飛んだオールマイトから爆豪を奪い返す。それでも早く動けない彼らを、後ろから蒸気で飛んだ灯水が支える。
背中を掴み、足の痛みに呻きそうになりながらも2人をゲートへ押し遣る。地面を凍らせて滑りよくし、滑走するのだ。
そして、2人をゲートから突き飛ばすように放って、灯水も地面に倒れ込んだ。
試験、終了だ。
***
「あんた本当加減を知らないね!」
出張保健室という、仮設と呼ぶには立派な医務室で灯水たち3人はリカバリーガールの治癒を受けていた。
最も軽症だったのが左足骨折の灯水だったのだ、リカバリーガールはオールマイトにくどくどと説教していた。
爆豪は意識をなくしており、緑谷は腰のダメージが大きくベッドで腰を上げるうつ伏せをしている。
骨がくっつき、念のため松葉杖を付いている灯水だけが立っていた。
「とりあえず3人とも校舎のベッドで寝かしておきな。轟弟たちもそっちで休んでもらってる」
オールマイトはすごすごと爆豪を抱き上げる。緑谷は残って他の生徒の戦闘を見ていくと言っていた。
そして、灯水とオールマイトは医務室を出て炎天下に出る。爆豪は昏々と眠っていた。
「強くなるな…緑谷少年も、爆豪少年も。そして君もだ、轟しょ…いや、灯水少年」
「ふは、少年て」
名前につけるには変な敬称だ。灯水が笑うと、オールマイトも小さく笑った。
「いい笑い方をするようになった。それも、爆豪少年のおかげかな?」
「はい。俺、今まで焦凍が嫌われないように、意識的にいいやつぶってたから。そういう人付き合いしか分からなかったけど、爆豪君が、これから変えてけばいいだけだって。だから、これからは自然体でいようと思います。ありのままっていうか」
「そうか。みんな、喜ぶと思うぜ」
「……、」
灯水はオールマイトの腕の中で眠る爆豪を見遣って、足が止まった。それに気付いたオールマイトが振り返る。
「…好きな人のこと、守れない自分の弱さも、ある意味爆豪君に教えてもらったんだと、思います」
「灯水少年…」
「一方的に守るような関係じゃない。並んで戦えるようになりたい。でも、俺は、決定力がないし、動けない場面もあった。爆豪君が、こんなになっても、最後に助けたのは緑谷君だった……」
ぼろぼろと、堰を切ったように頬を水滴が伝う。こんな感情は、初めてだった。松葉杖を支える左手は塞がっているため、右手だけでゴシゴシと乱暴に拭う。
「…悔しい…っ!…悔しい、悔しい、悔しい、悔しい……っ!!」
涙が出るほど悔しいと思うのなんて、これが、初めてだったのだ。
「強く、強くなりたいです…っ!目の前で、大切な人が傷付くのを、見てるしかできないのは、嫌だ……!」
これもまた、爆豪が教えてくれたものの1つといえるだろう。
強く誰かを想うことも、自分の至らなさを痛感することも、すべて本気の感情がもたらすものだ。焦凍を守ろうと必死になっていたときとは違う。必死と本気は違う。本気になれなかった灯水が、初めて、本気で悔しいと、強くなりたいと、感情的に思ったのだ。
「……さっき言っただろう、君も、もっと強くなる。弟のこと、家族のこと、爆豪少年のこと。そうやって誰かを全力で守りたいと思える、君の優しさが、君を強くするんだ」
「ひっ、ぅっ、ぐ、はい″…ッ!!」
きっと、これから先ずっと忘れることはないだろう。
土の匂いも、茹だるような暑さも、左足の痛みも、引き攣るような瞼の感覚も。すべて、この本気の感情とともに、未来までずっと想起され続ける。
それこそが、灯水を奮い立たせてくれるのだろう。