意識と無意識
期末試験が終わり、結果発表の日となった。
あの激闘や骨折は夢だったのではないかというほど体に異常はなく、いつも通りの朝を迎える。
焦凍は八百万との試験で何か変わったのか、また少し丸くなったような雰囲気だった。怪我のことを心配されはしたが、オールマイトから逃げおおせたことを褒めてくれた。
そうして朝となり、教室に入って焦凍と離れてから、いつも通り爆豪の席へ向かう。すっかり朝の挨拶と昼休みを一緒に過ごすことが習慣となっている。
「爆豪君、おはよ」
「……ん」
席について頬杖をついていた爆豪はちらりとこちらに目線だけ寄越して返した。赤い瞳による流し目のようなそれにドキリとする。
途端に、灯水が期末試験で気付いたことを思い出した。
爆豪が、好き。
想いを自覚するということがどういうことなのか、今さら分かってしまった。
咄嗟に顔を逸らして席に着こうとすると、爆豪が一瞬怪訝にするのが見えた。聡い爆豪は灯水が気付けなかった様々なことを教えてくれたほどなのだ、この気持ちも容易にバレてしまいそうだった。
もしバレて、気持ち悪いと言われたらどうしよう。近付くなと言われたら、立ち直れる気がしない。
ここは、爆豪に気付かれないよう、自身の感情を分散させるべきだ。なるべく爆豪以外の人間を交えて話すのがベストだろう。
それでも爆豪に近付かないという選択肢が出て来ない自分に、思わず苦笑した。
***
筆記試験が返されて、実技のフィードバックシートも返ってきたあと、相澤より「林間合宿は全員行きます」というどんでん返しもあって、いよいよ夏休みとなる。
それまで落ち込んでいた切島たちも立ち直り、早速ショッピングモールに必要なものを揃えに行く算段をつけていた。
灯水も誘われたが、その日は焦凍とともに冷の見舞いに行くことになっていた。体育祭から何かと理由をつけて避けていたのを行く気になったのは、単に爆豪のおかげで灯水も変わったからであり、ありのまま母と向き合ってみようと思ったからだ。
代わりではないが、灯水はとっとと帰ろうとする爆豪の腕を掴んで引き留めながら切島にこちらから誘いをかけた。
「切島君、帰りさ、ラーメン食べて帰ろうよ」
「へ、ラーメン?」
「……おい、なんだこの手は」
切島は突然の誘いに目をパチパチとさせ、爆豪は灯水に引き留められながらこの会話となったことに察しがついたのか低い声を出す。
「爆豪と行けばいんじゃね?帰り道一緒じゃん。な、爆豪?」
「……チッ、んで行く前提だよ」
そう言いつつ爆豪は拒否しない。現に、引き留められても振り払わなかった。太く筋肉質な腕を掴む指先から伝わる熱が心臓に直接伝わるようで、灯水はすぐに切島の顔を覗き込む。
「切島君は俺と一緒に行くの嫌だった?」
「は!?いや、そんなんじゃねえよ!?」
「ふは、うん、知ってる」
くすりと笑ってから、切島のシャツの裾をそっと掴む。ここで切島が来てくれないと、帰路に2人きりにならないようにしようとして結局2人でラーメンに寄ることになってしまう。
切島は灯水の言動に目を見張ってから、顔を少し赤らめる。
「あー…分かった、俺もラーメンの気分だったし」
「ほんと?良かった」
「……ヂィッ!!」
「ひえっ…悪いって爆豪、しょうがねえだろ…!」
切島が頷いてくれたことに安堵すると、爆豪がとんでもない舌打ちをかまして切島が小声で謝る。
それを少し疑問に思いつつ、夏休み前最後の通常下校を乗り切れることに安心した。あとは、夏休みで気持ちに整理をつけて、休み明けからは爆豪といつもの距離感に戻ればいいだけだ。