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すっかり真夏のそれとなった日差しと茹だるような暑さの中に3人で繰り出す。
「あっつ…切島君こんな暑さでよくラーメン食べたい気分になったね」
「そっくりそのまま返すぞ灯水」
「ほら…俺はエアコンが服着て歩いてるような人間だしさ…」
「はは、確かにな!」
切島は半袖のシャツを肩まで捲って太い二の腕を晒し、スラックスもロールアップして踝丈の靴下と革靴の間に逞しい脹ら脛が覗いていた。
反対隣を歩く爆豪も半袖だが、切島を見て袖を捲るのを止めていた。
灯水は長袖を捲っている。
そんな灯水は冷気を2人に向けて放出し、それは温度差でたまに水蒸気となって目に見える。
その涼しさからか、切島と爆豪は心なしか灯水の近くを歩いていた。
「にしても、灯水がラーメンとか意外だな」
「そうかな?まぁ確かにあんま食べないけど」
「おう。それに、灯水から誘ってくれたのもな。なんつか、今日は全体的に普段と雰囲気ちがう気がする」
灯水が無意識に張っていた、いわばバリアのような″よそ行き″の顔はなくし、灯水はまったくフラットな状態で振る舞っていた。今まで、焦凍や爆豪の前でしかしていなかったものだ。
「うん、そっちのがいいぜ。かわいい」
「へ……」
「……オイ」
「うお、だからしょーがねーだろ爆豪!」
気付いてくれた切島の感想に面食らうと、爆豪から低い声が飛んでくる。
そうこうするうちに、以前上鳴が勧めてくれたラーメン屋に着いた。そのときは瀬呂や砂藤が「灯水はラーメンとか興味ねえだろ」なんて上鳴をからかっていたが、そういうイメージは広くついてしまっているらしい。お高く止まっていると思われているのか、と思ったが、普段からそばばかり食べているのを考えれば自分でも確かに意外かもしれないと思えた。
店内に入ると、慣れたように2人は券売機を操作する。じっと見ていたからか、爆豪が舌打ちをしてからこちらに目を向けた。
「…何にすんだ」
「え…あ、醤油?」
「麺の固さは」
「固さ…?」
「選べんだよ。なんでもいいなら全部普通でいいだろ」
「うん、大丈夫」
ぽちぽちと爆豪はボタンを押して、あっという間に発券まで至る。慌ててお札を投入してお釣りも受け取ると、爆豪はすでに食券を店員に渡してテーブル席についていた。
「爆豪……」
呆れたようにする切島も食券を手渡して席についたのを見て、灯水も自分のそれを渡してからあとに続いた。
切島は4人席で爆豪の斜め前に座ったため、灯水はどこに座るか逡巡する。
そして、正面に精悍な顔を見るよりも隣に座った方が視界に入らないだろうと爆豪の隣に座った。「フン」と爆豪が鼻を鳴らし、「良かったな」と切島が生暖かい目をしていた。
先ほどから2人だけによる意思の疎通が図られていて、どことなく疎外感を感じる。こんなことを感じたことは今までなかった。
爆豪のことが好きだからこそ、他人同士の関係性にすら気が向いてしまうのだ。
人を好きになるとは、案外楽なことではないらしい。