夏祭りと閃光
見舞いの日から幾日か過ぎて、夏休みに入った。夏休みといえどすぐ合宿を控えている。
クラスメイトたちは皆で買い物に行った先で敵連合に遭遇し、事なきを得たものの合宿の行き先は生徒にすら知らされない運びとなった。
そしてその数日間、灯水は胸元の小さな痛みを見ないふりしながら、やはり近付くとドキドキしてしまう爆豪からなるべく最大限距離を取った。近づきながら距離を取るなど矛盾もいいところで、爆豪はさすがに気付いていた。
そんな週末、灯水はメールで爆豪に呼び出された。指定されたのは折寺と凝山の間あたりにある街で、そこそこ大きな花火大会が予定されている日だった。
まさかな、と思いつつ呼び出されたら応じたくなってしまう灯水はノコノコとやって来たわけだ。つくづく爆豪のことが好きなようだった。
「え……マジで2人?」
「……文句あンのか」
「ないけどさ…意外かも」
「ことあるごとにサシだろが」
「サシって」
指定された駅前のロータリーに着くと、ティーシャツにチノパン、厳ついベルトとブレスレットという不良のような出で立ちの爆豪がいた。七分丈のシャツとジーンズという服装で来た灯水は、もう少し洒落た格好でも良かったか、なんて思ってしまった。
爆豪の言うとおり、2人だけの時間というのは今までちょくちょくあった。
登山に始まり、雨の帰り道や爆豪の家、その後の登下校や昼休みなどだ。最近はむしろずっと一緒にいた。
いや、ここ数日は灯水がなるべく切島を交えたり、30センチ以内に入らないようにしたりと妙な距離を取っていたが。
それにしても、まさか本当に爆豪と2人で夏祭りに来ようとは。それが爆豪の誘いによるものというのが尚更驚きだった。なんだかんだ、爆豪から誘われたのは最初の登山だけだ。あれも消去法でしかなかった。
「……ふへ、」
「ンだそのキモい笑い方は」
「クソ失礼だけど許すわ」
誘われたことが嬉しくて締まりのない顔になってしまう。
夕焼けのオレンジは遠くに滲む程度で、頭上は天鵞絨の空、辺りはすでに祭を楽しもうという人々の喧噪に満ちていた。神社の境内に面した公園がメイン会場となっており、そこから川沿いに屋台が並ぶ。その一角の端で、2人はいよいよ喧噪に飛び込んだ。
人混みの中を並んで歩くのはなかなか厄介で、浴衣姿の女子は歩くのが遅いこともあって余計に歩きづらい。
2人はちんたらと歩きながら、両側の屋台を適当に見る。
「よく来んの?」
「初めて来た」
「マジか。俺は祭自体初めてなんだよね」
「……、」
そんなものを楽しめるような家庭ではなかった。爆豪はそれを思い出したのか一瞬身じろぎしたが、フンと鼻を鳴らして灯水をおもむろに引っ張った。
「わ、」
「祭のセオリー叩き込んでやる」
「セオリー…」
爆豪に引っ張られて列に並んだのは金魚すくいだ。存在するとは知っていたが、初めて見た。
列はすぐに捌けて順番がやって来る。
「ほい」
店主に渡された薄い和紙のような物を見て愕然とする。まさか、これで掬うのか。
さらに、しれっと千円札を渡す爆豪にも慌てる。
「ちょ、お金、」
「うるせえとっととやんぞ、後ろにもいんだ」
後ろにもいると言われては早くしなければと焦る。後で払おうと、とりあえず水槽の前にしゃがんだ。