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爆豪の隣にしゃがんで水槽を眺めると、綺麗な金魚たちが盛んに泳いでいる。明らかに重量はそこそこありそうで、改めて薄っぺらい紙を見て、こんなもので掬うなど何を考えているのかと不思議に思った。
「見てろ」
一言それだけ言うと、爆豪は突然サッと紙を水槽に突っ込み、片手に持ったボウルに移した。水の張ったそこには一瞬にして金魚が一匹。
さらにもう一匹、二匹、三匹と爆豪は目にもとまらぬ速さで金魚を掬っていった。
「……さ、才能マン……」
「やるな兄ちゃん」
店主と2人で呆然とすると、後ろに並ぶ子供たちが歓声を上げた。ドヤ顔の爆豪のボウルには金魚が蠢いている。
見よう見まねでやってみようと灯水も構えると、爆豪は灯水の右手に自身の手を重ね、包み込んだ。
「っ、」
「角度があンだよ」
至近距離になる爆豪の顔と、右手を包む熱い手の平。辺りの気温が一気に上がった気がした。
何やらアドバイスを言ってくれていた気がしたが、灯水は顔に熱が上がるのを堪えるという無意味な努力で精一杯だった。
「わ、分かった!分かったから!」
「あ?じゃあやってみろや」
体を離して、爆豪の清潔な匂いから距離を取る。そして無心で言われた通りに網を突っ込み、金魚を掬って見せた。
気が付けば一匹捕らえていて、自分でも驚く。
「…え、できてんだけど」
「俺が教えたんだから当たりめーだろ」
「ほんとすごいね」
純粋に驚いてしまった灯水は、爆豪を感心して見上げる。その表情はたしかにドヤ顔だが、明らかに優しげな色も見せていて、灯水は爆豪の顔を見上げてドキドキしないわけがないのに思わず見てしまった自分のアホさ加減が嫌になる。
「っ、!え、と!これ、持って帰んなきゃなのかな!?」
「リリースでもいいぞ〜」
「じゃあ返しますね!」
灯水は慌ててボウルを店主に押し付けると立ち上がる。爆豪は後からボウルを同じく返してから立ち上がり着いてきた。
「はぁ〜あっつ!今日暑いわマジで!」
「…すげえ冷気出てっけどな」
無意識に冷まそうと冷気を放出していたらしい。白いもやが薄く出ていて、肌に軽い結露ができたような、エアコンの効いた部屋からゲリラ豪雨明けの外に出たときのような、そんなじめっぽさを感じる。
「わっ、気付かなかった!あ、ついでにかき氷食べようよ」
「なんのついでだ」
呆れたような爆豪はごもっともだ。とりあえず目に入ったものを示しただけだったが、「冷えすぎだアホ」と言われ却下された。代わりに爆豪はたこ焼き屋に並び、すぐに買って出て来た。
往来の真ん中で差し出されて思わず爪楊枝を受け取って食べてしまったが、またお金を払っていない。
というかさっきから、焦ったり照れたりお金を出し損ねたりと忙しい。まさに振り回されている状態だった。
そう言おうものなら、「勝手に振り回されとんのはお前だろ」とすげなく返されるだろう。事実そうなので否めない。
爆豪の一挙手一投足にドキドキしているのは灯水の勝手な反応に過ぎない。あまり、そんなところを聡い爆豪に見せてこの気持ちがバレたくはなかった。本当に気を引き締めて、適度な距離を取らなければならない。
そう決意して爪楊枝を刺したたこ焼きは爆豪も同じタイミングで狙ったもので、爆豪は舌打ちをつくと無理矢理灯水の手を掴んで、そのたこ焼きを自身の口に運んだ。
強引に「あーん」をさせられたようなものだ。爆豪までこんなことをするなど、祭で浮かれているのだろうか。周りでそれを目撃した女子たちが色めきだっている。そんなことまで承知でニヤリとした爆豪に、早速負け戦を予感した灯水であった。