怒涛の始まり


期末試験や終業式を終え、雄英は夏休みに入った。買い出しに出かけた緑谷が敵連合と遭遇するというトラブルがあったものの、林間合宿は予定通り実施されることになった。

ただ、場所だけは変更になった上、行き先は生徒にすら告げられず、どこに行くかも分からないまま一同はバスで高速道路を走っていた。

灯水は欠伸をひとつ漏らし、目尻に出た涙を拭う。集合が早かったため、若干寝不足気味だったのだ。
すると、右隣の窓側に座る爆豪が「アホ面」と軽く笑った。完全に馬鹿にしていたが、灯水はもはやこの程度ではまったく気にならない。

夏祭りのとき、爆豪は灯水に近付くことを許してくれた。爆豪への気持ちを自覚して動揺していた灯水も、その言葉に安心した。
しかし具体的にどうやって「離れんな」という爆豪との約束を守ればいいのだろう、と思っていた。そんな折、バスに乗車する際に、爆豪は強引に灯水を隣に座らせたのだ。
焦凍は少しキレ気味だったが、緑谷に宥められ、なんとか砂藤の隣に収まっている。


「くっそ眠い…」

「ざまぁねぇな」

「朝弱いからさ、爆豪君は楽しみで早く起きちゃった?」

「天然で煽ってくんじゃねえ」


爆豪はそう言って軽いデコピンを食らわせてくる。そんな僅かな接触ですら嬉しい自分は重症だな、と思っていると、おもむろに爆豪は灯水の肩にその太い腕を回した。
そして、自身の方へと抱き寄せ、凭れさせてきた。


「へっ、な、爆豪君、?」

「寝てろ。元々の予定じゃ今日は何の訓練も入ってなかったが、そんならこの時間に集合するわけねェ。なんかあンだろこりゃ」

「なるほど…?」


灯水が聞いているのは、爆豪が自ら灯水を凭れさせてくれたことなのだが、爆豪の不穏な予想にそれも萎む。やりかねない。雄英なら、というか相澤ならやりかねない。
デコピンすら嬉しかったのだ、肩に頬をつけて体重を預けられる姿勢をさせてもらえて、灯水は体温が上がらないよう必死で調整する。

近付いていいと言ったのは爆豪なのだ、もう少しくっついてもいいだろうか、と灯水は爆豪の鎖骨あたりに額をつけるようにすり寄ってみた。
すると爆豪は溜息をつく。


「へたくそ」

「え…なにいきなり…」

「甘え方が下手だっつってんだ」


そう言うと爆豪はより深く灯水を抱き寄せながら、自分も窓に寄り掛かった。角度が深くなることで爆豪に預ける体重も増し、密着するスペースが多くなる。そして肩に回していた手で後頭部を乱雑に撫でた。

これは心臓が保たないかもしれない、灯水はそう内心で思いつつも、強張っていた力を抜いて爆豪に寄り掛かった。



そんな穏やかな時間も束の間、バスは停車し、A組全員、何もない広場に集合させられる。PAでもなさそうだ。

まさか、と思っていれば、「煌めく眼でロックオン!」というお馴染みのフレーズが聞こえてきた。

4人組ヒーロー・プッシーキャッツのうち、マンダレイとピクシーボブだ。示し合わせたように現れたヒーロー、不穏な相澤、そしてマンダレイが指し示す施設の位置。


「…さすが爆豪君」

「チッ、思ったよりも面倒そうだな」


試す気まんまんのマンダレイたちに、爆豪は舌打ちをしつつ警戒する。灯水も意識をはっきりとさせると、他にも察した瀬呂たちからバスへと走り出す。爆豪と灯水は諦めていた。

そして、ピクシーボブがニヤリとして地面に手をつくと、突然、地面が大きく隆起した。土砂を操る個性だ。
悲鳴を上げながら落ちていく生徒たちに混じり、灯水は蒸気で、爆豪は爆破で姿勢を保ちながら落下点に着地する。それでも、制服は土砂で汚れてしまっていた。


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