優しさ極振り
3時間、などというのはプロの話で、A組が合宿施設の″またたび荘″に辿り着いたのは夕方のことだった。
各自ボロボロのグロッキー状態で、爆豪も手を押さえて痛みを堪えていた。隣を歩く灯水の方を見ると、こちらもフラフラとしながら足の霜を解かしつつ体温を下げていた。
ピクシーボブには「唾つけとこ」なんて評されたが、プロとの違いを痛感した。
「やべー…意識飛びそ」
寝不足も相まって、灯水はかなりフラフラとしている。とはいえ雄英生、それもエンデヴァーの息子だけあって、足取り自体はしっかりとしているようだった。
「フラフラしてんじゃねえ」
ぐっとその腰を引き寄せて支えてやると、なぜか清潔な匂いが香る。個性の影響で極端に発汗が少ないとは聞いていたが、それにしてもこうも柔軟剤の香りが残るような清潔感とは、となぜかドキリとしてしまった。そんな自分がさすがに情けなく、内心で舌打ちを連打した。
そうして、ようやく夕飯の時間になり、荷物を置いてから食堂で食事をかきこみ、一息ついたところで風呂の時間となる。
爆豪はふと、灯水の全裸を見るのは初めてだと気付いた。いくら女っ気がない爆豪とはいえ男子高校生、好きになったのも同じ男子高校生ではあるが、好きな人の裸体を見ることに何も思わないわけがない。
というか、だからこそ爆豪は本当に灯水のことが好きなのだと実感したわけだが。
脱衣所まで一緒になることもなく、灯水は焦凍の隣で服を脱いでいる。爆豪はちらりとだけ見てから、息を深く吸って落ち着かせた。最悪、余弦定理のことでも考えるしかない。
しかし風呂に入ってしまえば、疲れもあって湯船の中で感情が無になる。峰田たちは何やら騒いでいたが爆豪の興味の範疇にない。
問題ねェか、と内心で思いながら肩にかけていたタオルを縁石に載せると、そこへ、隣に灯水が入ってきた。
「ヒュッ」と爆豪は一瞬呼吸が止まる。それでも灯水は気にした様子もなく爆豪の隣で縁石に凭れると、「あ″〜」とおっさんくさい声を出す。
なるべく視界に入れないようにしていたが、灯水は繊細そうな見た目のわりにお湯の中で大胆に足を開いて座っており、意外とがさつな一面にギャップを感じてしまう。灯水なんでもかわいい芸人と化した爆豪にはまったくもってマイナスなことではなかった。
「爆豪君はさ、気になんないの?」
「……あ?」
「向こう側」
反応が遅れたが、灯水が問うには意外な質問に、爆豪は軽く驚いて隣を見遣る。灯水の白い髪から水滴が伝い、頬を下っていく。
「っ…、気になんねェわ」
「そっか」
「……お前はどうなんだよ」
「いやぁ、A組女子はほら…ちょっと強すぎるから……」
「………まぁな」
遠回しに女として見ていないと言っている失礼な灯水に可笑しくなりながら、爆豪は隣で姿勢を変える灯水を注視する。
灯水は後ろ向きになって縁石に肘をつき、そこに頭を乗せる。そして、視線を感じたのかこちらを見上げてきた。耳の後ろに掻き上げた髪の束から、はらりと赤い髪の房が垂れ、うっすら上気した肌を水滴が伝っていく。
「……見すぎ」
「ッ、見てねーわ!」
「いや見てるじゃん、なんで嘘つくの」
くすくすと笑う灯水の色気は、好きな人の肌を見てしまう、なんてレベルの心配で済むものではなかった。股間にダイレクトアタックするその色香の強さは想定外で、爆豪の前では比較的子どもっぽい灯水の、歳に不相応な大人っぽさがふと垣間見えたようだった。