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夜になり、入浴の時間となった。昨日はいろいろと騒いでいたが、二日目ともなると落ち着いて湯船に沈む。焦凍は訓練が熱湯に浸かることだったため、早々に出て行った。
昨日の入浴時は灯水から爆豪の隣に陣取ったが、今日は先に湯船にいた灯水の隣に爆豪が来た。ちらりと見れば、見慣れた筋肉が照明と水面に照らされていた。とはいえ間近で見たことがあるわけでもない、灯水は自分とあまりに違う筋肉質な腕を見て、それを無言で持ち上げた。
勝手に腕を持ち上げられた爆豪はされるがままで気にしたそぶりはない。上腕二頭筋はコスチュームでも見えているのでいいとして、腕の筋張った様子はこうして見てみると立派なものだった。血管が少し浮いた腕は、血液検査がしやすそうだと思う。
自分の腕と比べると、一回り違った。悔しくなって、その腕をつねる。
「むかつく」
「ハッ」
爆豪は灯水の意図がお見通しで、勝手に比べて勝手にジェラシーを感じている灯水を鼻で笑った。
そして、仕返しとばかりに爆豪は灯水の腕を掴んで見つめる。
「おい、ちょっと氷出してみろ」
「え、うん」
腕から小さな氷の柱を出すと、爆豪は氷が出ている部分の肌を凝視する。
「直接出てんのな」
「そう、体内の水分子が表皮の内側で凍って、外の氷と結合してんの」
「へぇ」
短く答えるのは興味がないようだが、爆豪がこうして感心を示すこと自体が珍しい。
灯水が結合を解いて氷を湯船に落とすと、一瞬で溶けていった。
「ひっくし、」
すると、灯水は肩から先を外に出していたために寒さを感じてくしゃみをしてしまった。普段は体温を調節しているためこういうことは起こらない。
「個性使ってねぇんか」
「うん。やっぱお風呂って、外部から暖められる心地よさを求めるモンだと思ってるからさ、俺とか焦凍は。個性使ってないよ」
「じゃ、人肌も同じだな?」
爆豪はそう言って、灯水の腕を引っ張って自分に倒れさせた。油断していた灯水は抵抗もできず、爆豪の胸板に正面から倒れ込んだ。とはいえそこは湯船の中、顔面から水面に飛び込むことになり、灯水は慌てて顔を出すと咳き込んだ。
「げほっ、げほっ、ちょ、なにすんの!?」
「あ?暖めてやってんだろ」
「お湯で結構!このやろ、久しぶりに腹立った」
最近は感じていなかったが、そういえば理不尽に傘を取られてずぶ濡れになったり、昼食を食べるときに激辛麻婆を食べさせられたりと、これまで灯水にはそういったからかい方をしてこなかった友人たちと異なり、わりと容赦のない目に遭ってきた。
灯水は仕返しをしてやろうと、爆豪に抱きつきながら個性を使い、全身の体温を一気に下げた。
肌が触れあう爆豪はその冷たさに「冷ッてェなクソが!!」とキレた。
「どーだ参ったか!鼻に水入ってんだぞこっちは!謝ったら離してやるけど!?」
「ぜってー謝ンねーわクソが離せ!!」
バシャバシャとお湯を激しく散らしながら、爆豪は灯水を引き剥がそうとし、灯水は離されないようにしがみつく。
と、そこへ、2人をがばりと太い腕が引き剥がした。
「はい、イチャつくならよそでやれよ〜、お二人さん」
手の主は切島で、腕力ではかなうはずもなく、灯水と爆豪は距離を取られる。切島も冷たかっただろうに、何も言わなかった。灯水は個性を解いて体温を戻す。
すると、見ていた上鳴がニヤニヤとして言った。
「マジで二人って、付き合ってるみてーだな」
「え……」
灯水の認識に間違いがなければ、上鳴は、灯水と爆豪が付き合っているように見えると、そう言った。途端に、じゃれ合いを周りに見られていたのだと思い知り、羞恥で一気に体温が上がった。ちょうど体温を戻すために炎熱側の個性を使っていたため、それがついオーバーヒートし、瞬間的に湯船全体の温度がつられて上がった。熱湯と化した湯船に、男子たちが悲鳴を上げて飛び上がり、各自慌てて出て行く。
「あ″っづ!!!」
「おわぁッ!!」
「あッちィ!!!」
「や、付き合ってるとか、ほんとそんなんじゃないかんね!?!?あり得ないし!俺が爆豪君と付き合うとか!!マジで!!」
「わ、分かったから灯水!!個性止めろ!!」
動揺した灯水に、上鳴も切島も湯船の外の床に這いつくばりながら悲鳴交じりに呼びかける。灯水は恐慌状態と化した風呂場を見て冷静になり、「ごめん…」と呟きながら温度を戻した。元の温度に戻ったところで、上鳴の隣にいた爆豪が上鳴の頭をはたいた。
「なにしとンだアホ面!」
「悪いって!」
「や、ほんとごめん、びっくりしちゃって…マジで付き合うとか、そういうんじゃないから、爆豪君に申し訳ないし…」
灯水は湯船の中に座ったままだが、切島は「分かったって」と言って灯水の頭を撫でた。落ち着かせようとしてくれているのだろう。
恥ずかしさや照れくささもあったが、爆豪に思い切り拒否されるのを目のあたりするのが嫌で、灯水は軽くその手から逃げるように頭を振ると、湯船から立ち上がる。
「…温度、戻しといたから。先に出るね」
爆豪が何か言う前に、灯水はとっととその場を後にする。まだ、爆豪とどうなりたいかなんて結論が出せることではないが、それでも、否定されることは明白に怖いと感じた。