動揺


「爆豪君、」

「…あ?」


夜、布団を並べて隣の爆豪に声をかけるが、その反応は薄かった。先ほどの風呂で上鳴にからかわれて動揺してしまった灯水は、爆豪に否定されるのが恐くて先に出て来てしまったが、爆豪がどういう態度になっているのか確かめたくて声をかけてみた。しかし、爆豪はこちらに目線を向けない。反応はしてくれたが、どことなく、壁が感じられた。

そういう人の機敏には敏感になってしまう灯水は、それ以上爆豪に踏み込む勇気が出ず、「なんでもない」と会話をやめてしまった。

どうせ寝るだけだ、と灯水は布団に潜って目を閉じる。隣の爆豪が少し身じろぎしたが、灯水に問い直すこともしなかった。


***


翌朝も引き続き、個性伸ばし訓練を行った。訓練となれば集中せざるを得ないし、冷水のドラム缶の中にいれば思考もままならなくなる。
そうして時間を過ごすうちに、夕方になった。

今日は肉じゃがを作ると言うことで、また男子は食材のカットを始める。相変わらず爆豪は素早く野菜を切っていた。昨日教わったことは身についているはずもなく、歪な形の人参となってしまった。その歪さが自分の感情のようで、灯水は少し乱暴に鍋に放り込んだ。


その後も特に爆豪とは会話のないまま夜になった。灯水から話し掛けなければ二人の距離も関係もこんなもので、本当は希薄なものなのだったと気付く。

それは灯水でも最初から気付いていたし、だからこそあの雨の日に爆豪と距離を詰めようと決めたのだ。
それ以降は灯水から爆豪に話し掛けていたし、そして夏祭りのときに爆豪が許容してくれた。
ただ、それはあくまで許してくれただけで、灯水から動かなければ何も生まれない。

これからもずっとそうなのだろうか。
これからも、灯水から近付かなければ、爆豪とは薄い関係性のままなのだろうか。距離を維持するには灯水が常にそばにいようと頑張らなければならないということなのだろうか。


「…それは、しんどいな……」

「何が?」


思わず呟いた言葉に緑谷が反応した。

今、生徒たちは森の広場に集められ、肝試しの準備をしていた。緑谷は灯水のペアとなり、二人で森の中を巡ることになっている。ざわつく生徒の合間で、順番を待っていた。


「ああ、いや、個性ありの脅かしって結構すごそうだなって」

「確かにね!B組の人たちもすごい個性だから、きっととても効果的な驚かせ方してくるんだと思う、それに、」


そうして例のぶつぶつが始まったのを横目に、灯水は誤魔化せたと息をつく。爆豪の幼馴染みである緑谷は、普段から爆豪と仲が悪いが、互いに明らかに意識し合っている。会話なんてほとんどないのに、二人は明確に強い関係性を持っている。

その確かな絆だけは羨ましかった。

爆豪は焦凍とともに先に森の中に入っていた。少しだけ、一緒に肝試しを回ってみたかった気持ちはあるが、今の灯水の動揺ではまともに会話もできなかっただろう。


「…緑谷君、」

「うん?」

「…俺と爆豪君って、付き合ってるように見える?」

「あぁ、昨日の上鳴君が言ってたやつか…うーん、僕はあんまり恋とか分からないからうまく言えないけど…かっちゃんと灯水君は、すごく相性がいいと思うよ。何より、かっちゃんが君に向ける感情が違うし」

「え、そうなの?」

「うん、だってかっちゃん、他人に対してあんな優しくないし…っていうか、かっちゃんが灯水君にしてる言動、初めて見たレベル。かっちゃんにあんな普通の人っぽいことできる力があったとは」

「緑谷君って結構失礼だよね」


力関係が不思議な幼馴染みだ。
それにしても、爆豪の灯水への言動は緑谷から見て初めてのものだと言うほどらしい。
しかし、それは爆豪から直接示されたものではない。爆豪は、自身の気持ちを、灯水に伝えてくれはしなかった。


「…俺も同じか」


緑谷が森の方へ意識を向けたのを見て、灯水は聞こえないように呟く。
きっと爆豪も、灯水の感情など分からない。互いに、完全に内側を見せ合っているわけではないのだから。


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