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唖吹と麗日がスタートしてからしばらく、時折悲鳴が響くのを聞きながら待っていると、ふと、焦げ臭いにおいを感じた。
炎司との修行の際によく焦げた臭いを嗅いでいたため間違いない。これは、木が燃える臭いだ。
「…ね、緑谷君、なんかさ、」
臭いを指摘しようとしたときだった。
突然、ピクシーボブが悲鳴を上げて浮き上がった。何が、と全員が目線を向けたときには、すでにピクシーボブは大柄な男の持った角形の巨大な棒に頭が直撃し意識を失っていた。
「ピクシーボブ!」
緑谷が叫んで駆け寄ろうとしたが、それよりも前に虎とマンダレイがその前に立った。
「なんで…なんでいるんだよ……」
峰田が震えた声を出して後ずさる。
そう、万全を期したはずだった。生徒たちすら行き先を知らなかったはずなのに、この隔絶された森の中、敵が現れたのだ。
「ごきげんよう雄英諸君!我々は敵連合開闢行動隊!」
トカゲのような見た目の男、どこかしなを作った男の二人組の足下にピクシーボブが倒れている。
森の向こうでは黒煙と青い火の粉が上がっている。
敵は複数存在する可能性があった。
「全員すぐに施設へ!委員長誘導!」
マンダレイは鋭く指示する。敵の個性も判明せず数も分からない、さらにヒーローの数は限定され生徒は森に散開している。
この状況では、まずは施設に集合して守りを固めるのが優先だ。
飯田はすぐに生徒たちを誘導して走り出す。しかし、緑谷はマンダレイの方へ向かった。すかさず飯田が呼び止めるが、聞いている様子はなかった。
また緑谷は勝手に行動するようだ。相変わらずの行動力に呆れる。
「飯田君、行こう、緑谷君のことはマンダレイが指示を出すから、俺たちは先へ」
緑谷は無茶もするしすぐ勝手に行動するが、それは実力に裏打ちされている。追い掛けるにしても飯田しか追いつけない。
灯水は飯田に放っておくよう言うと、飯田が頷いたのを確認して、峰田や尾白たちと施設へ走り出した。
すぐに、マンダレイのテレパスが脳内に響く。
『皆!敵2名襲来!他にも複数いる可能性あり!動ける者はただちに施設へ!会敵しても決して交戦せず撤退を!』
森の中には他にも多くの生徒が残っている。爆豪と焦凍もだ。心配ではあったが、灯水たちがヒーローの足を引っ張る方が最悪だ。
心配を振り切って走っていると、ふと、視線を感じた。
殺意とも違う、こちらを補足する意識だ。思わず灯水が足を止めると、ステインとの戦いで同じような視線を経験した飯田も止まった。二人が止まったことで、尾白たちも立ち止まった。
「どうした!?」
「…なんか、いる」
「あぁ、この気配は、味方のものではないだろう」
飯田と灯水が周囲を警戒すれば、峰田はビビりながらも同様に辺りを見渡す。索敵役の障子や耳郎がいれば分かっただろうが、二人とも先に肝試しの順番が来て森に入ってしまっていた。
「それだけ分かっても意味ないけどな」
突如としてそんな声が響き、全員の背筋が凍った。それだけ不気味だったのだ。
バッと声がした方を一斉に見ると、道の脇に、木に寄り掛かる男の姿があった。
若い男は全身に火傷の跡のような爛れた皮膚が広がり、それを健康な肌と歪なピアスで繋ぎ止めている。
「さぁ、来て貰おうか、轟灯水」
「なっ、」
名指しで示されたのは灯水だった。攻撃手段を持つ飯田と尾白がすかさず灯水の前に立った。明らかに狙われているとなれば確かに守る対象にもなるだろう。だが、この中で最も攻撃力も防御力もあるのは灯水だ。それに距離が近すぎる。さらに男からは、今のところ殺意は感じられなかった。二人が戦うことは得策ではない。
「大人しく来てくれれば、他のやつには手を出さない。俺も、雄英生相手に対複数戦闘は避けたいからな」
「それでおとなしく捕まるやつがいるかよ」
尾白は近接戦の構えを取る。飯田もエンジンを温め始めた。それを見て、男は敵意を滲ませる。その体から物理的な「熱」を感じて、すぐに灯水はあの火災の犯人だと気付いた。
(まずい、こんな至近距離で範囲攻撃されたら避けられない…!)
あまりにも分が悪すぎる。灯水はここで複数戦闘をするよりも、飯田たちに相澤を呼んで貰う方がいいと判断した。
「…分かった。あんたについてく」
「な、灯水君!?」
飯田が驚くが、灯水は尾白と飯田の間から男の前に出た。男はにやりとして敵意を解く。
「お前は賢いな。じゃ、行こうか」
灯水はすれ違い様、飯田に目配せをした。施設に向けたそれに、飯田は増援を呼べという意味に気付いたようだ。ともにステインとの戦いでその重要性を知っている。
灯水は男と連れだって森の中へ入っていく。飯田たちの心配そうな視線を受けながら、辺りは暗闇になっていった。