戦闘許可
薄暗い森の中、男は灯水の肩を抱いてゆったりと歩く。殺意こそないが、警戒はしているようで、この姿勢もいつでも攻撃できるようにするためだろう。
「…あぁ、そういえば名乗ってなかったな。俺は荼毘、よろしくな、灯水」
男は荼毘というらしい。馴れ馴れしく名前で呼んできたことからも、灯水はなんとなく目的を察していた。
「仲間に引き入れるつもり?」
「本当に頭がいいんだな」
高い位置から荼毘の楽しげな声が落ちてくる。
灯水を生きたまま攫うメリットを考えれば察するのは容易い。
単純な人質であれば、個性を鑑みて灯水は人選ミスだ。灯水の個性は自由度が高い、人質として留めておくことは不可能だ。
洗脳や脳無のような改造人間にすることも同じ理由で難しい。自由度が高い個性は思考が必要だ。意思と思考がなければ、味方はおろか自分すら個性に巻き込まれることになる。
となると、何らかの方法で灯水に灯水の意思で敵にさせるつもりなのだと分かる。
「記憶操作でもするわけ?」
「着いてからのお楽しみだ」
「…あっそ」
灯水に逃げられる可能性を考慮し、手札は明かさないらしい。荼毘も相当に頭がキレると見た。
『A組B組総員、プロヒーロー・イレイザーヘッドの名において、戦闘を許可する!!』
すると、脳内にマンダレイのテレパスが響いた。どうやら相澤は先にマンダレイとコンタクトを取ったらしい。広場に行ったのかは分からないが、灯水への応援はもう少し後になりそうだ。正直広場の方向はここからはあまり分からない。ここはもう、派手に戦闘して合図を出すほかなかった。
「合流したら文句言ってやる」
「あ?なんだ?」
「キモい、触んな」
灯水はほとんどノーモーションで氷結を放ち、荼毘の右腕を凍らせた。同時に蒸気で飛び上がり距離を取ると、荼毘が出現させた炎を操って上空に高く柱のように上らせる。炎をコントロールしながら蒸気で森の中を進む。
荼毘が更なる炎で灯水を捕らえる前に少しでも距離を取るのだ。
すると、おもむろに炎が消えた。灯水が操作できなくなり、夜空を照らす青い炎が忽然と姿を消す。
「相澤先生か、」
相澤が追いついて荼毘の個性を消したと見るのが自然だ。それならこのまま施設に戻るべきか、と灯水は蒸気を止めて森の中に佇む。
そこへ、さらに頭にテレパスが届いた。
『敵の狙いの一つ判明!生徒の”かっちゃん”と灯水君!”かっちゃん”と灯水君はなるべく戦闘を避けて単独では動かないこと!分かった!?”かっちゃん”!灯水君!』
「…マジか…いや、そう言われても……」
自分の現在地も分からないのだ。どこに合流するかなど判断できない。まずは空に出ようと灯水は蒸気でまっすぐ上空に飛ぶと、辺りを俯瞰する。
「っ、なんだこれ…」
森は、青い火災とピンクの霧、マンダレイたちが交戦する広場、そして焦凍のものだろう氷結が見えた。あちこちで敵が戦っているようだ。
ここでもし、灯水が施設に戻れば、これだけの大規模な戦闘を行う敵が施設を襲うことになる。そこには恐らくヒーローとしてブラドキングが一人、生徒は補習組と飯田たち、恐らく洸汰もいるだろう。
荼毘のような範囲攻撃が施設に及べば守り切れない。
個性で言えば、灯水と焦凍、爆豪が揃えば火力として申し分ないため、まずは爆豪たちと合流してから、範囲型の敵がいない広場に出てマンダレイたちと合流するのが得策だろうか。
それが爆豪を心配して早く無事を確かめたい気持ちの言い訳でなかったといえば嘘になるが、間違っているとも思わない。
灯水は決めるとすぐに氷結の方へと飛んだ。