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焦凍が出していると思われる氷結の方へ飛んでいくと、別の方向から爆発音が聞こえた。目を凝らすと、何やら黒いものが森を破壊しながら氷結の方へと進んでいく。


「…え、黒影?」


それは常闇が宿している黒影だった。巨大化しているが、確か暗闇では制御が難しくなると言っていた。まさか暴走しているのだろうか。
これでは味方に後ろから刺されるようなものだ。急いで灯水は氷結のある道へ飛ぶと、氷結の壁の向こうに爆豪と焦凍の姿を見付けた。
そこへ上から向かって着地する。


「焦凍!爆豪君!」

「灯水!なんでここに!」


焦凍はB組の円場を背負っていた。意識を失っている。二人が戦っていたのは、「肉、肉見せて」と言いながら歯を伸ばして攻撃する死刑囚。
灯水が答える前に、常闇の黒影が轟音と共に接近してきた。その正面で走るのは、障子と緑谷だ。緑谷はひどく負傷していて、障子に背負われていた。


「爆豪!轟!どちらか頼む、光を!!」


障子が珍しく直接叫んだかと思うと、攻撃モーションに入った敵の男が突如として現れた真っ黒な巨大な手に押しつぶされた。氷壁を破壊して現れたのは、巨大化した黒影だ。
常闇はその影にのまれている。


「障子、緑谷と…常闇!?」


焦凍も気づき、混乱する中で障子の触手の先の口が喋りながら近づいてくる。


「速く光を!常闇が暴走した!!」


その触手に向かって黒影が手を振り下ろし、轟音とともに地面が抉れる。直前に障子は触手を戻していた。


「見境なしか、よし炎を…」

「待てアホ」


焦凍が炎によって光を発生させようとすると、爆豪が制止する。その視線をたどると、起き上がろうとする敵の姿。


「その子たちの断面を見るのは僕だああああ!!横取りするなああああ!!!」

「強請ルナ、三下!!」


刃を向ける男をものともせず、黒影は男を思い切り掴む。ミシミシと骨が鳴る。


「見てぇ…!」


そう爆豪が呟いたその次の瞬間には、黒影はその手を伸ばし木々に男を叩きつけながら薙ぎ払う。森の片側はその一振りで数十本の木々が折られて倒れた。
男は反対側の木に叩きつけられ、完全に意識を失った。

そこですかさず焦凍と爆豪がそれぞれ炎と爆破によって光を出し、黒影を沈静化させる。

ようやく事態が落ち着いて、障子、緑谷、常闇と一カ所に集まる。緑谷たちが常闇にテレパスの内容を説明していると、爆豪が「おい」と声を掛けてきた。


「お前広場にいたんだろ、なんでこっち来た」

「施設に向かう途中、火災を起こした敵と遭遇して戦ってた。施設に戻るにしても広場に戻るにしても決定打ないから、先に焦凍と爆豪君と合流してから広場に行こうって」

「灯水君よく無事だったね…」


緑谷が言うがそれはこちらのセリフだった。また無理をしたらしい。
とりあえず、一同は話し合いの末に、狙われている爆豪と灯水を守りながら施設を目指すことになった。相澤と荼毘が戦闘中であれば、施設に範囲攻撃ができる敵は近付いていないのでは、という苦しい推測だった。

そうして歩き始めた一同だったが、そのときはすぐに訪れた。


ふと、隣にいたはずの爆豪と後ろにいた常闇の気配が消えて、息を飲む寸前に灯水の意識もブラックアウトした。
それが敵の個性によるものだと気付いたのは、目が覚めたとき。


周囲は青い炎に包まれ、焦げ臭いにおいで満ち、そして灯水の体は黒い靄に覆われようとしていた。首を掴む不気味な継ぎ接ぎの手は荼毘のものだろうか。隣には爆豪がいて、靄に飲まれようとしている。

正面には、こちらに手を伸ばす焦凍と障子の姿。障子は常闇を抱え、緑谷は地面に倒れ、焦凍だけが最後までこちらに手を伸ばす。


「灯水ッ!!!」


焦凍のそんな悲痛な叫び声は初めて聞いた。今まで家族に心配させないよう生きてきた灯水だったが、これはさすがに、みんなを心配させるだろうな、と思う。焦凍が一番、精神的に参ってしまうかもしれない。
だからこそ、抵抗できない今だからこそ、灯水は笑った。今にも泣きそうな焦凍に、笑いかけた。


「大丈夫だよ、焦凍」


今までの灯水だったら、心配させて、迷惑掛けて、心を乱して、足を引っ張ってごめんと謝っていたかもしれない。だが今は違う。
命が助かればいいわけではない。安心させてこそヒーローだ。灯水は焦凍のためだけではない、まだ見ぬ誰かのためにヒーローになる。その誰かをも安心させられるように、灯水は笑った。

もう灯水は決してぶれない。その強さをくれた人と一緒に、必ず帰ってみせる。
だから、大丈夫。そう意味を込めた。


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