3


灯水が黙ると、部屋には沈黙が落ちる。少しして、ため息をついて死柄木は荼毘の方を見た。


「…、荼毘。轟灯水の方が勧誘しやすいとか嘘じゃないか」

「俺もそう思ったんだけどなぁ。どうやら思っていたよりも、こいつしっかりしてるみたいだな」


本当はとっくの昔に灯水は立ち直っていた。ようやく殊勝な態度を取る必要がなくなって清々としていると、爆豪が少し呆れたようにしていた。案外、フラストレーションをそのままぶつけがちな灯水の一面に呆れているのだろう。その面では決して爆豪に呆れられる筋合いはないと思っている。


「…まあいい。爆豪君、君はどうだ?勝つのは好きだろ?」


続いて死柄木は爆豪の方に視線をやった。標的を切り替えたようだ。爆豪にはあらかじめ、灯水が部屋に水を張っておくことを伝えていたため、いつでも脱出の準備ができると言ってある。目配せすれば、爆豪は何の反応もしなかったが、恐らく理解していた。これだけ薄く意思の疎通ができるようになったことが、場違いながら嬉しかった。

すると、意外にも死柄木は荼毘に対して爆豪の拘束具を外すように指示した。


「は?暴れるぞ、こいつ」

「いいんだよ、台頭に扱わなきゃな。スカウトだもの。それに、この状況で暴れて勝てるかどうかわからないような男じゃないだろう?雄英生」

「…トゥワイス、外せ」

「は!?俺!?嫌だし!!」


荼毘はトゥワイスと呼ばれた全身タイツの男に外すよう言った。トゥワイスは嫌だと言ったわりにすぐに拘束具を外しにかかった。


「強引な手段だったのは謝るよ、けどな。我々は悪事にいそしむただの暴徒じゃねぇのを分かってくれ。君らを攫ったのはたまたまじゃねぇ」


その間に、ハットの男がそう静かに言った。そうは言ってもただの暴徒だ。やはり灯水が話したことの根幹を理解していないようだ。


「ここにいる者、事情は違えど、人に、ルールに、ヒーローに縛られ苦しんだ…君たちならそれを―――」


しかしその言葉が終わることはなかった。爆豪は、拘束が外れた途端、椅子を蹴り倒して爆豪は死柄木に爆破を仕掛けた。すんでで死柄木は避けたが、手首が外れて顔が晒される。静かだった部屋に突然響いた爆音で、全員の緊張は一気に最大値に引き上がる。


「黙って聞いてりゃダラッダラよぉ…バカは要約できねーから話がなげぇ!要は「いやがらせしてぇから仲間になってください」だろォ…!?無駄だよ…」


爆豪は低い姿勢と低い声で唸るように言った。


「俺は、オールマイトが勝つ姿に憧れた…!誰が何言ってこようが、そこァもう曲がらねぇ!」


そういえば、なぜ爆豪がヒーローを目指しているのか、灯水は初めて聞いた気がした。みんなヒーローになるために雄英に来ているため、わざわざ聞いたことがなかったのだ。
ちょうどそこへ、テレビから記者会見の続きが聞こえてくる。それは、爆豪が体育祭で見せた粗暴な性質が弱さになるのでは、という記者の質問であり、恐らく敵連合が爆豪を攫った理由でもあることだった。それに対して、相澤が答える。


『誰よりもトップヒーローを追い求め、もがいている…あれを見て「隙」と捉えたのなら、敵は浅はかであると私は考えております』

『根拠になっておりませんが?感情の問題ではなく、何か具体策があるのかと伺っております』

『我々も手をこまねいているわけではありません。現在警察とともに調査を進めております。わが校の生徒は、必ず取り戻します』

「言ってくれるな雄英も先生も…そういうこったクソカス連合!!」


灯水も爆豪も、最初から敵になるような隙などなかった。まったくもって誤算であり、敵連合にとっては、雄英への襲撃を連続で成功させたというそれだけが成果となるだろう。


「言っとくが!俺らはまだ戦闘許可解けてねぇぞ!!」

「自分の立場よくわかってるわね、小賢しい子…!」

「刺しましょう!」


爆豪と灯水は臨戦態勢になる。マグネと女子高生も殺気をにじませ、ハット男と荼毘も呆れながら構える。灯水は氷結の準備をしながら、敵の動向をうかがう。先ほどから死柄木が、黙って俯いていた。


「手を出すなよお前ら…こいつらは、大切なコマだ…」


その途端、死柄木は鋭い眼光で思い切りこちらを睨み付けてきた。思わず爆豪も後ろに下がるほどの殺気で、連合のメンバーもたじろぐ。死柄木は悠然と手首を顔にはめ直す。


「できれば…耳を傾けてほしかったな…君らとは、分かり合えると思ってた…」

「ねえわ」

「ないね」


灯水と爆豪の声が重なる。死柄木も言葉による説得は諦めたらしい。二人から視線を外すと、テレビの方を向いた。


「仕方がない…ヒーローたちも調査を進めていると言っていた…悠長に説得してられない。先生、力を貸せ」

『良い判断だよ、死柄木弔』


すると、テレビからまったく別の声が聞こえてきた。灯水と爆豪は、黒幕の登場に緊張を走らせる。ここに来て新たな存在というのは、不確定要素が多すぎた。


「黒霧、コンプレス。また眠らせてしまっておけ」


どうやらハットの男はコンプレスというらしい。二人を誘拐した個性の持ち主だ、動かすわけにはいかない。灯水はついに個性を発動した。


54/65
prev next
back
表紙に戻る