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「爆豪君、脱出最優先、なんて言う必要ないか」
「ったりめーだ」
敵は6名、対してこちらは2名。いち早く灯水たちが脱出できなければ、オールマイトの足を引っ張ることになる。
「トカゲは個性不明、でも刃物による近接攻撃。ロングのグラサンも近接攻撃だけど、何らかの個性でピクシーボブを宙に浮かせて飛ばしてた。荼毘とかいう継ぎ接ぎは炎系」
「個性も戦闘スタイルも不明なのはJKと全身タイツか。継ぎ接ぎがいねぇならあからさまな遠距離はいなさそうだな」
「コンプレスやマグネみたいな特殊形が癖あるね。とにかく距離を取りつつ氷結で拘束できれば…」
「その隙に上に飛んで逃げる」
灯水と爆豪の間で情報共有を済ませると、敵連合たちもじりじりと二人を取り囲む。近接戦をする者の構えや体の動きは、A組で散々見てきた。トゥワイス、トガ、スピナー、マグネは確実に近接攻撃主体だ。恐らく、マグネとコンプレスが不意を突いてくるだろう。トゥワイスとトガがどのような攻撃手段を取るのかは戦わなければ分からない。
「先手取ろう、森でやったやつ」
「…避けられるだろ、あいつら」
「視界を塞ぐ」
灯水は小さく言った直後、思い切り自分たちの周りに蒸気を噴出した。すぐに敵の姿は見えなくなり、互いに視認できなくなる。
直後に、灯水は雨氷の杭のように尖ったつららを爆豪の前に出現させる。それを爆豪が爆破して、つららは蒸気の中に目にも止まらぬ速さで飛んでいった。どうせこの攻撃は狙うことができない、それなら見えていなくても同じだった。相手が迂闊にこちらに近づけないという心理的な圧力にもなる。
さらに灯水は、蒸気の中に無数の水の糸を巡らせた。相手の動きを関知するためだ。先ほど部屋のフローリングの隙間に水を巡らせたとき、その水を敵の靴が踏む感覚が伝わった。そこから、水によって探知できると踏んだのだ。
案の定、蒸気の中を動く敵の動きを3カ所で関知する。
「来る、」
「もう一度やんぞ、量増やして長さもつけろ」
「了解」
爆豪の意図はまだ分からないが、疑うことなく灯水は動く。信頼しか、そこにはなかった。
言われた通り、まるで剣山地獄のような鋭いつららを密度も長さも増して爆豪の周りに出現させると、灯水が「出てくる」と探知した言葉を聞いた直後、爆破によってそれを放った。
そのときにはすでに、トガ、トゥワイス、コンプレスが蒸気からこちらに躍り出てきており、突如として現れたつららに悲鳴を上げて飛び退く。3人ともうまく避けたが、怪我を負わせることには成功した。
量が増えて長くなったことで、敵は蒸気を出てからつららを視認し避けるまでにほとんど時間がなく、避けても別のつららがあるという状況に追い込まれた。爆豪は一瞬でここまでの効果を得る計算をしたらしい。
「爆豪君、えげつな」
「お前には言われたくねェ」
そう言い合うと、戦闘中にも関わらずそろって苦笑してしまう。
3人はなおも灯水たちに向かってくるが、灯水がその正面に氷の壁を3メートルほどの高さで構成すると、爆豪が爆破で飛んでその上から攻撃する、と見せかけた。
氷の壁の裏では、爆豪が爆破を起こし、灯水が蒸気で飛んだ。わざと透明度の高い氷にしていたため、敵連合は爆豪が上から来ると思っただろう。
しかし、爆豪は壁ごと正面に向かって大がかりな爆破を仕掛けた。
「キャッ!」
「冷てッ!!」
トガとトゥワイスが叫んで飛ばされる。コンプレスはなんとか爆破を免れたが、そのときには上から灯水が大量の熱湯を浴びせていた。
コンプレスは熱湯を球体に圧縮して避けるが、トゥワイスは一部を浴びてやはり「冷てぇ!」と叫んでいた。いちいち言動がちぐはぐな男だった。
追撃しようと爆豪が爆破をするが、突然、トガの体が光ってNという文字が浮かんだ。コンプレスにSと浮かび、爆破が到達しようとしていたトガはコンプレスに引き寄せられ爆破の進路から外れた。
どうやら、マグネの個性のようだ。男性と女性にそれぞれ磁力を発生させるらしい。持っていたのは巨大な磁石で、あれを使ってピクシーボブを宙に浮かせて激突させたのだと分かる。
連携はうまくいっているが、思うように致命傷を与えられない。歯がゆく思っていた、その瞬間、更地に面したコンクリートの壁が吹き飛んで、氷結が現れた。灯水の個性ではない。氷はジャンプ台のようにせり出しており、その上を、レシプロを発動した飯田とエネルギーを纏った緑谷が切島を担いで飛び出していた。なんと、A組のメンバーの一部、それもステインの件でともに怒られた緑谷や飯田が助けに来てくれたのだ。
「あいつら…ッ」
「マジか…!」
驚いて爆豪と見上げると、切島が両手をこちらに差し出す。
「来い!!!」
迷う間もなく、灯水と爆豪は空中に飛び出していた。一気に3人が近づいて、そして、切島の堅い手を取る。
「バカかよ…!」
爆豪はそう言いながら切島の左手に掴まった。その声音は爆豪にしては優しい。
「ほんっと無茶ばっかするよね緑谷君!!」
思わず灯水も切島の右手に掴まりながら言うと、緑谷は苦笑して「つい、ね」とだけ答えた。相変わらず、体が先に動いてしまう生粋のヒーローらしい。
「爆豪君、俺の合図に合わせ…」
「てめぇが俺に合わせろや!!」
「張り合うなこんなときにィ!」
飯田がバーストに合わせるよう爆豪に言うと、爆豪がガウと噛みつく。切島がいさめるが、灯水が蒸気を維持して口を開く。
「あーもう間を取って俺に合わせて!飯田君は直線方向、爆豪君は下方!はいせーの!!」
灯水が言うと、飯田は真後ろに向かってバーストを放ち、爆豪は下に向かって爆破を放つ。浮力と推進力が同時に働き、空気抵抗でぶれるバランスを灯水が蒸気によって保つ。
すると、眼下でマグネが反発によってコンプレスを打ち出そうとしているのが見えた。このまま届いてしまえば、かなりまずい。コンプレスの個性を解けるのもコンプレスだけなのだ。
しかし、コンプレスたちが空中に射出された直後、突如として巨大な体が現れた。Mt.レディだ。
「救出…優先…行って、バカガキ…!」
その後ろでは、グラントリノやエンデヴァーなど他のヒーローが到着しているのも見えた。これで、オールマイトは心置きなく戦える。一同の正面には、瓦礫に覆われた地面が近づく。実に劇的に、灯水たちは地獄から脱出することに成功したのだ。