変化のとき


灯水たちが危機を脱して、オールマイトに守るものがなくなれば、それで勝てると思っていた。それだけ、オールマイトは絶対的な存在だったのだ。

人々が歓声を上げて、諸手を挙げて喜びながら、アナウンサーすらも涙を流して、すさまじい戦闘の跡が残った瓦礫で手を掲げるオールマイトの名を叫ぶ。
いつもの姿を維持できなくなったオールマイトは、すぐに萎んでガリガリに痩せ細った姿になってしまう。

オールマイトが本当は、いつもギリギリだったなど、誰が知っていようか。他の人々と異なる涙を流す緑谷を眺めながら、灯水は歓声がやまない駅前広場の中に立っていた。


灯水たちがここに来たときにはすでに、オールマイトとオール・フォー・ワンの戦いは熾烈を極めており、何度も巨大な爆発が夜空に立ち上ってはビルに反響していた。しかし、やがてオールマイトの萎んだ姿が明らかになり、見るからに劣勢に立たされた。急速に不安に駆られた人々の応援の声が聞こえたかのように、オールマイトは再び力を漲らせると、渾身の一撃を巨悪にたたきつけた。
そうしてこの夜、神野区を壊滅させた悪夢はようやく覚めて、平穏に戻るための人々の努力が始まることになる。

灯水は衝撃的な場面の数々に言葉を失っていたが、緑谷たちが一緒に来ていた焦凍と八百万と合流する算段をつけたため、近くのコンビニに向かうことになった。灯水は心配させないよう、なんとか意識を目の前に混乱に向けて、先ほどまでの光景を振り払う。平和の象徴を失っていたことに日本が気づくであろう明日の朝以降、この国がどうなってしまうのか、早くも漠然とした不安が浮かびそうになっていた。

コンビニまで来ると、正面から焦凍が走ってきた。なぜかホストのような格好をしている。よく見ると、全員なぜか繁華街のチンピラや風俗嬢のような格好をしていた。


「灯水ッ!!灯水、灯水…良かった、無事か…!」

「大丈夫だよ、焦凍…!ありがとう、助けに来てくれて」


駆け寄ってきた焦凍に抱きしめられ、安心する匂いに包まれる。やはり血を分けた片割れの腕の中は、特別な場所だった。


「お前が大丈夫っつってくれたから、冷静でいられた。信じてたけど、やっぱり、気が気じゃなかった」

「心配させてごめん、でも、大丈夫だよ」


そう言っていったん体を離すと、改めて八百万たちにも礼を言う。一緒にいたいのはやまやまだが、時間も遅い、電車は動かないので焦凍たちは一時避難所に移動し灯水と爆豪は警察に一度保護されなければならない。


「……轟」

「、なんだ」


緑谷が警察を呼んでいると、爆豪が焦凍に声をかけた。珍しいと軽く目を見張っていると、爆豪は灯水の肩を抱いた。


「こいつは俺ん家でいったん預かる。誰も迎えに来れねェだろ、お前の家は」

「あぁ…そうだな、姉さん…保護者に言っておく。助かる」

「学校には俺から言っておく。明日以降、適当に迎えに来い」

「分かった」


内緒で来たのだろう焦凍たちと一緒にいるわけにはいかない。家族の状況からして迎えがないであろう灯水の家のことを考えて、爆豪はそう提案してくれた。焦凍も納得したのか、意外にも二つ返事で頷いた。
焦凍は去り際に、灯水の手を軽く握ると、さらりと灯水の頭を撫でた。


「……爆豪、灯水を、頼む」

「……言われンでもそうするわクソが」

「焦凍……?」


どこか寂しそうな顔をした焦凍が気になった灯水だったが、焦凍はするりと手を離すと、緑谷たちとともに喧噪の中に消えていった。

まるで一種の決別のようで、灯水は急に不安になる。
しかし、爆豪がおもむろに頭を混ぜ返すように撫でてきた。


「え、なに、」

「気にすンな。けじめつけるだけだ」

「けじめって……」

「いいから行くぞ」


警察を待たせているのも確かで、灯水は爆豪に手を引かれて警察車両の方へ向かう。爆豪と焦凍の間の会話にしては静かで落ち着いていて、そして爆豪自身もどこか凪いだような雰囲気だった。それもまた気になってしまった灯水だったが、被災地となった街の中、まずは必要なことをすべて済ませなければならないと、意識を切り替えた。


58/65
prev next
back
表紙に戻る