along with you
警察で一通り必要なことを話して、二人は爆豪の両親の迎えのもと、爆豪の家へと帰ることになった。警察にすまなさそうにされながら、サイレンがけたたましく鳴り響く街の音を背景に灯水と爆豪は警察署をあとにした。
灯水は重ねて爆豪の両親に礼を言って車に乗り込み、3度目となる爆豪家の車から混乱する町並みを眺めた。やがて高速道路を走ること2時間ほど、折寺の街にやってきて、そして2度目となる爆豪の家にやってきた。
「おじゃまします」
「はいどうぞ。灯水君と勝己、おなかはすいてる?」
「いえ…食欲はないです」
「…俺も」
「そう…じゃあスムージーだけ作るから、それだけ飲んで、お風呂入って休むといいわ」
光己がそう言ってくれたことに甘えて、二人はスムージーだけ飲んで、とっとと入浴を済ませた。会話はなく、灯水は客間に通される。前回は客用の布団がないからと爆豪と一緒に寝たが、今回は部屋が別に用意されていた。
がらんとした清潔な部屋はなんだか物寂しく、あれだけ轟音の響く場所にいたからか、その静けさが心理的に圧迫してくるようだった。堪らず、灯水は先に入浴を済ませていた爆豪のいる部屋に向かう。
2階に上がって、記憶を頼りに爆豪の部屋をノックすると、すぐに扉が開く。
どうやら明かりを付けずにいたようで、部屋は薄暗く、外からの街灯の明かりだけが光源となっていた。
「……入れ」
「ありがと…」
灯水の心境を察しているらしい爆豪に促されて中に入ったが、薄暗く、沈黙による静けさに変わりはなかった。あまり無表情というのは見たことがなく、感情の読めない様子に灯水は訝しむ。爆豪は意外とわかりやすい。いつもいろいろな感情を表情に浮かべていた。概ねそれは怒りだが。
うっすらと、立ったまま暗い部屋でほのかな明かりに照らされる爆豪からは拒絶の意志も感じられた。聞くな、と無言で言っているようだった。むやみに人の深いところに立ち入ることは、たとえ親友のような間柄であっても好ましくないだろう。あれだけのことがあった後ならなおさらだ。
しかし灯水は、ここで恐れて立ち止まるようなことはしたくなかった。今まで、爆豪が灯水に対して遠慮して何かを言わなかったことなどあっただろうか。センシティブな家庭のことに、結構ずけずけとものを言ってきた。それで、灯水は救われた。
いつも灯水は助けてもらってばかりだったのだ。爆豪に支えられてばかりで、灯水にとって爆豪は大事な存在でも、逆はそれほどではないかもしれない。
ヒーロー志望なのに、助けられてばかりなど、嫌だった。爆豪とは、常に対等でいたい。隣に立っていたいのだ。そして一番そばで支えたかった。それが、人を好きになるということの側面でもあると思った。
「……爆豪君」
「…ンだよ」
「……どうしたの」
「…おめーに関係ねェだろ」
振り返りもせず、やはり爆豪は拒絶を口にした。しかも、今まで恐らく爆豪が避けていた言葉で。きっと爆豪は、あえて灯水をはっきりと受け入れる姿勢を見せることで灯水を安心させてくれていた。関係ない、などという拒絶は、決して口にしようとしなかった部類ものだろう。
だが完全に拒絶するつもりだけなのであれば、そもそも部屋に入れなかったはずだった。爆豪はわかりやすい。拒否するなら完全に拒否する。こんな中途半端なことはしない。灯水を部屋に入れたことは、爆豪の、無意識のSOSなのだ。
「…散々人の深いところに立ち入っておいて、自分のこととなると逃げるんだ」
「……あ?」
「そうでしょ。俺に近づいていいって言っておいて、いざとなったら逃げる。俺に弱いとこ見せるのが怖いんだ」
「…てめぇ、喧嘩売っとンのか」
「図星?手負いの虎っていうより怯える猫みたいな反応すんね」
「ッのやろう、ぶっ殺す!!」
爆豪はそう言って灯水の顔面に向かって手のひらを突き出した。爆破の構えだ。灯水はそれを、目も閉じずに迎え撃つ。もし爆破されれば、失明しているだろう。
しかし、爆破されることなく、目の前に爆豪の節くれ立った、灯水の大好きな手があるだけだった。ニトロが分泌された気配すらない。
「…、お前、正気か、何しとんだ…」
ただ火傷するならまだしも、目はいくらリカバリーガールがいるからといえど致命傷だ。それに、普通、目への攻撃に反射的に目を瞑らずにいることはできない。それは、灯水がこれを攻撃だと最初から認識していないことの表れだった。
「…覚悟、だよ。俺は、安易な気持ちで君に近づいたんじゃない。単なる好奇心や正義感で言ったんじゃないんだよ、勝己。俺は、全部、君に預けて、君の全部を受け入れる覚悟を決めてる。それだけ」