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プロヒ設定
「あれが敵のいるビルだよね!」
白昼の東京都渋谷区上空、灯水は焦凍とともに飛びながら前方に見える高層ビル群を見て、隣を炎で飛ぶ焦凍に声をかけた。
空を切る音が耳に響くため、声を張っている。
「間違いねえ!あのクレーンのとこだ!」
「そんで、品川方面から来てるのがデク、新宿方面から来てるのは爆心地って感じかな!」
「多分な!」
前方のビル群には、青空を背景に緑の眩きと爆発の連続が同様に接近している。ちょくちょく一緒になってしまう4人だ。
プロになってから、灯水と焦凍は揃ってエンデヴァー事務所に入り、今日も通報を受けてすぐに向かった。エンデヴァー本人は不在である。
すでに独立した爆豪、いまだに″ナイトアイ事務所″の名を冠するセンチピーダーの事務所にいる緑谷は、なぜか現場が重なることが多い。
ビル群の1つの屋上に到達すると、建設中の高層ビルのクレーンに敵の姿を確認した。
敵は作業員を人質に取ってクレーンと一体化している。金属と同化する個性だという。
恋人に振られた腹いせに、大きな被害を出す形で自殺しようとしているとのことだが、クレーンのところに来たときには地元のヒーローが来ており、作業員を仕方なく人質に取ったものの、そのあとどうすればいいのか分からず立ち往生しているらしい。気の小さい男だ。
「傍迷惑な野郎だな」
「迷惑じゃない敵なんていないって」
「そりゃそうか」
そんな会話をすると、隣のビルから爆破しながら飛び出す影が見えた。爆豪だ。とっとと作業員を助けがてら気を失わせでもするのだろう。
しかし、敵はクレーンの金属を操ってぐにゃりと曲げると、爆豪に突き刺そうと鋭く飛び出した。
爆豪は咄嗟に避けるも、鋭利かつ俊敏に動くウニのような金属の針が近付く者を拒む。
灯水は駆け付けたヒーローを確認しようと周囲を見渡す。辻向かいのビルに移った爆豪、建設中のビルの足場にいる緑谷、そしてその下で作業員たちの避難誘導をする麗日。
やたらA組が多く、他にめぼしいヒーローはおらず、眼下の道路で野次馬を遠ざけていた。すでに道路は警察の車両の赤いライトが埋め尽くしている。
「どうにかして隙を作れば、緑谷君か爆豪君に意識飛ばしてもらえるんだけど……」
「…っ、隙できんぞ、最悪の形だけどな」
唐突に焦りを声に乗せた焦凍。灯水もすぐに事態に気付いた。
男はあくまで金属の同化と操作ができるだけで、金属を生成できるわけではない。そのため、大きな針を大量に作ったことでクレーンの支柱から急に鉄柱がなくなり、支柱との繋ぎ目に負荷がかかって折れようとしていた。
このままではクレーンは落下してしまう。
いや、落下を止めることはもはや不可能だ。すぐに複雑な骨組みを再構築できるほど敵は冷静ではない。
だが意図した落下でもないだろう。それはすなわち隙を生む。
「クレーンの角度的には、緑谷君が気付くはず」
「敵は緑谷に任せて、俺たちはクレーンを何とかしよう」
「うん」
すぐに屋上から飛び降りて飛行を始めれば、やはり緑谷が足場から飛び出した。
同時に、軋む音とともにクレーンは折れ、金属の破断する衝撃音を響かせて落下を始めた。野次馬から悲鳴が上がる。
敵が慌てて金属を支柱に向けて動かそうとしたその隙に、緑谷は敵に一瞬で近付き、首の後ろに手刀を落として意識を沈めた。生に縋ろうとするならこんなことはしないで欲しかった。
敵は意識を失い個性が解かれたため、クレーンから分離して空中に投げ出される。作業員もそうだ。
クレーンはウニのような形状でこそなくなったが、歪な骨組みは回転しながら自由落下を始めている。
そのクレーンの先は、回転しながら隣のビルに激突し、ガラスを砕いてオフィスの中のものを掻き出すように外に撒き散らした。その中には1人の女性が巻き込まれており、悲鳴を上げて落ちていく。
爆豪が待機していたビルだったため、爆豪は速やかにその女性をキャッチすると横抱きにしてビルの破壊された場所から安定したフロアの奥へ運ぶ。
一方、緑谷は黒鞭という黒い鞭のような質量を持つ光を指から出すと、回転しないようクレーンをグルグルと巻き付けて固定する。しかしさすがに持ち上げることはできないため、固定しながら一緒に落下していた。
「ショートはフォロー頼む!作業員回収してくる!」
「分かった!」
焦凍はすぐに緑谷と合流し、クレーンを支えて下方に向かって炎を噴き出す。緑谷は驚きつつバランスを調整する。
灯水の方は蒸気で飛んで作業員を抱きかかえるようにキャッチすると、同じく飛び出してきていた麗日の方へと飛ぶ。
「ウラビティ!」
「ヒスイ君!こっちは任せて!」
「お願い!」
作業員を麗日に渡すと、麗日の個性によって作業員も無重力となり、建設中のビルへと戻っていく。
すると、爆豪が破壊されたビルから戻ってきて空中に踊り出た。
「かつ……爆心地!!」
「あァ!?」
「クレーン頼む!ショート!下で受け止めて!」
爆豪は声を掛けられたことには驚いておらず、状況を見て灯水の指示が的確だと気付いたのか、舌打ちをしながらクレーンへと向かった。
当然舌打ちなど灯水には聞こえてこないが、絶対にしていただろう。
焦凍も「了解した!」と返してからいったん炎を止めた。