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そうして焦凍は道路へと降り立ち、爆豪はクレーンの下に回り込み爆破を下方に放ってクレーンに段階的に浮力を与える。緑谷の黒鞭が万遍なくクレーンを覆っているため、力は面として受け止められクレーンが粉々になることはない。
少しずつ落下速度を落としながら地面に接近し、緑谷の上からのコントロールと焦凍の下からの氷結によって、ビルや道路はおろか車すら傷付けずに道路にクレーンを″置いた″。

その間、灯水は最後に落下していた敵をキャッチして、警察に引き渡すべくゆっくりと蒸気を噴射しながら降りていった。

灯水が地上に降り立った頃にはクレーンは氷結に支えられて道路の直上数メートルの位置に固定され、緑谷は個性を解いて警察と焦凍と合流。爆豪も離れた位置に控えていた。そこへ灯水も気絶した敵を抱えて降り立ち、無事、警察に敵を引き渡した。

通りの離れた場所にいた野次馬たちはそれを見てワッと歓声を上げ、緑谷と焦凍もホッとしていたが、爆豪だけはイライラとしていた。
建設中のビルのエントランスでは、エレベーターで降りてきた麗日と作業員が出て来て救急車に作業員を乗せている。

これで完全に一件落着と見て、早速報道カメラがこちらに駆け寄ってきた。規制線を越えても許される立場、というわけでもないのだが、警察が規制線を解き始めた瞬間にこちらに来ていたのだろう。


「ヒーロー・デク、ショート、ヒスイ、ウラビティ、そして爆心地!元雄英の″あのA組″ がまた快挙です!ぜひ一言!」


女性アナウンサーがマイクを4人に向けようとした、その途端、ついに爆豪が解き放たれた野犬のようにガウッと吠えついた。


「うっせェな!!こちとら不完全燃焼なんだわ!!おいこら舐めプとクソデク!!!」

「ヒッ…!」

「お、どうした」

「も〜なに怒ってるの?」


焦凍と緑谷は慣れたようにしているが、爆豪の怒声にクルーたちは完全に怯えている。近くで見ようと寄ってきていた野次馬の人々もそうだ。

そう、この4人が揃うと、爆豪がよくキレる。特に今日のように、敵を倒す役割を取られるなど主要なポジションを奪われると「手柄横取りしやがって」と怒り出す。
今回は、敵を倒すのを緑谷に、空中でのクレーンのコントロールによる被害防止を緑谷と焦凍に持って行かれ、自分は女性の救出しかできなかったことが怒りを強めていた。

まずいな、と灯水はすかさず前に出ると、爆豪の正面に立った。緑谷たちが、そしてカメラもこちらを向いているが致し方ない。

灯水は爆豪の頬を両手で包むようにして頭を掴むと、至近距離で目を合わせた。身長差が今では15センチ以上になってしまったため首がつらい。


「こっち見て爆心地」

「あ″!?何しやがる!!」

「最後のクレーンの落下速度調整は爆心地じゃなきゃ難しかったよ、ショートじゃ熱で道路に被害が出てたし、俺の蒸気じゃクレーンは支えられなかった。爆心地がいてくれて良かった」


目を合わせてゆっくり言えば、爆豪は徐々に大人しくなっていく。
そして最後に小声で、「やっぱ勝己が1番格好いい」と囁くと、シュウ…という音でもしそうなほど爆豪は一気に鎮火した。

その瞬間、灯水は緑谷たちに視線を向ける。


「ショート、デク、クレーンの下の車のドライバーに声かけて車どかしてからクレーンを地面に下ろして。ウラビティも手ぇ空いてるから」

「あ、うん分かった!」

「おう」


2人もすかさずその場を離れクレーンへと向かい、ドライバーに車をクレーンの下からどかすよう指示する。
それによって止まっていた時が動き始めたように、人々がざわめいた。

そして、女性アナウンサーが灯水たちのところへやって来る。


「ば、爆心地は……」

「すいません、驚かせてしまって。もう大丈夫なんで」

「すごいですね、ヒーロー・ヒスイ……爆心地がキレているのを止める術はないと聞いていたのですが…何かコツでも?」

「ええ…コツなんて……」


そう言われても、と返答に困ると、爆豪は灯水の手を顔から外し、そのまま灯水の肩を抱き寄せた。目の前に筋張った爆豪の喉元が迫り、鼻先が鎖骨に当たる。


「ちょ、」

「コツなんざねェ。こいつが、特別なだけだ」

「特別……」

「なっ、なに言って、」

「俺ァ他のヤツの言うことなんざ聞かねえし指図も受けねえが、こいつは別だ。俺をコントロールしたきゃヒスイを派遣しろ、覚えとけ」


好き放題言う爆豪に灯水は慌てる。当然だ、2人の関係は公にしていない。
アナウンサーはひどく驚いていたが、神妙に「分かりました」と答えていた。

センテンス砲を食らったらどうするんだと灯水は去って行くクルーを見送りながら頭を抱えた。

しかしその後の報道では、『まさに猛獣使い!天然王子と男前一匹狼を従えるイケメンヒーロー!』などと称され、あちこちで猛獣使いと言われることとなり、ついにはヒーローたちからも応援要請がまさかの爆豪のコントロールという名目で猛獣使いの名を欲しいままにすることとなるのだった。

ちなみに、そんな報道を見た灯水が「そんな俺って勝己の恋人に見えないのかな」と拗ねてみたところ、爆豪の呼吸が止まり危うく「クソカワ」が最期の言葉となるところだったのは別の話である。


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