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くっついたあと、仮免試験前


神野事件が日本を震撼させた夏休みが終わり、雄英高校は全寮制に舵を切った。
2学期から早速入寮を済ませ、当面は仮免試験に向けて個性を伸ばす訓練がメインとなっている。

そんな中、灯水と爆豪は、神野事件のあとにその関係性を変えてからというもの、それをクラスメイトたちに明かすでもなく、二人だけに留めていた。面倒だから、というのが二人の共通の理由であるが、それによって二人はあまり他の者たちの前で近つぎすぎないように注意していた。

もとからそれなりに距離の近かった二人だが、やはり「恋人」の距離というのは違うものだ。

しかし、ようやく普通の高校生らしくなれたばかりの灯水にとって、そんな高度な距離の調整など簡単にできるものではなく、結果、爆豪から距離を取る方向で落ち着いてしまっていた。
そんな灯水のことなどお見通しだったのだろう、ある夜、全員就寝して照明が落とされた1階のリビングに飲み物を取りに来ていた灯水が爆豪と出くわすと、その鋭い目つきが月明かりに照らされ、ホラー映画もかくやというとんでもない形相の爆豪に睨み付けられた。


「ヒッ、な、なんだ、爆豪君か」

「……テメェ…」


低く唸るように言うと、爆豪はこちらにずかずかと近づいてくる。思わず後ずさりしてしまったが、爆豪は気にせず灯水の両肩を掴むと、思い切り引き倒す。
突然の強い力に驚いたが、床に倒れることはなく、暗くて気づきにくかったがすぐ傍にあったシッティングスペースのソファーに背中がついた。

ソファーに押し倒されるような形となり、外からの僅かな明かりで照らされた端正な顔がこちらを見下ろす。
鋭い切れ長の瞳は落ち着いた紅色で、灯水はついドキリとした。


「テメェ距離の取り方下手くそすぎンだろぶっとばすぞ」

「バレてる…」


案の定、爆豪は灯水がどういう距離でいればいいのか分からずにいるのを見抜いており、冷静にキレていた。
どうしたものか、と考えていると、爆豪はため息をつき、灯水の顔の両側に肘をついて顔を近づける。
まるでプランクでもしているような姿勢になると、そのまま爆豪は唇を灯水のものと触れ合わせた。あの神野の夜を彷彿とさせる時間と光景だ。


「俺ァ言ったよな、夏祭りンときによ」

「夏祭り…」


爆豪と二人で夏祭りに行ったときのことを思い出す。そういえばあのときも、灯水は爆豪への思いを自覚して、それがバレないように距離を取ろうとしていた。
そしてそれに気づいた爆豪は、期末試験の結果が良かった方の言うことを聞くという試験前の勝負を持ち出し、「離れるな」と言ったのだ。


「…俺、気ぃ抜くとすぐくっついちゃうよ」

「いいっつってンだろが」

「みんなにバレるし」

「どうせバレてる」

「…え、マジ?」


そういえば、合宿のときに男子たちには察せられていたようだし、女子も鋭いため、確かにクラスにバレていてもおかしくはない。みんな言わないでくれていただけだろうか。


「…なんだ、じゃあ気にしなくて良かったのか」

「……チッ、外聞気にしてンだったら体で分からせてやるつもりだったのによ」


すると、爆豪は舌打ちとともにそんなことを言ってきた。外聞とは、男同士で交際していることを灯水が気にする、という意味だろうか。そして分からせるというのが、恋人の文脈でいえばどういう行為になるのか、さすがに分からないわけではない。

まだ二人はそういうことをしていないし、いくらプライベートがあるとはいえ学校の寮でそういうことは気が引けたが、頭にないわけではなかった。
もっと言えば、爆豪が機会を窺ってくれていたことは嬉しかった。


「爆豪君、俺でもいいんだ、そういうの。男だから、そういうことは、俺には興味ないかもな、って思ってた」

「二重で分からせてやる必要があるみてェだなァ?」

「なんでけんか腰なんだよ」


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