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鋭児郎は処理場に着くと、係員に大事なものを誤って捨てたことを伝え、不燃ごみの処理場に連れて行ってもらった。
そこで担当者に直談判してみろとのことだったので、作業服の初老の男に頭を下げた。
「お願いします!本当に大事なものなんです!!」
「1人のために処理プロセスを遅らせるわけにはなぁ」
「お願いです、この通りっす!!!」
鋭児郎は、ついにコンクリートの地面に膝とついて額をつけた。土下座である。中学生がゴミ処理場で土下座というのは、大人の精神衛生的に良くない。慌てた担当者は、「顔上げて!まったく、自分で探すんだよ」と仕方なく言ってくれた。
「ありがとうございます!!!」
そして鋭児郎は分別室に通されて、粉砕場行き寸前のものから確認を始めた。ベルトコンベアによって運ばれている部分だ。そのあたりのものはすでに袋が取り除かれているため、見るだけで分かる。
ないと判断したので、分別室の最初に戻り、袋の中の確認に入る。山と床に積まれた大量の袋を、ひとつひとつ開けては自宅のゴミがないか確認し、袋を閉じ、というのを繰り返す。
あまりに必死だったからか、仕分けをする男性たちが鋭児郎の住所を聞き、その担当の車からのものはこの辺だと教えてくれた。
勢いよく礼を言ってそのあたりの袋をチェックしていくと、ついに、鋭児郎がまとめた私物が入った袋を見つけた。
その中にはシオンのリュックもあった。
「あった!!!」
「おお、良かったな!」
リュックを引きずり出すと、心配そうに見ていた男たちもそう声をかけてくた。優しい人たちだ。
すると、ぽろ、とリュックから何かが出てくる。底の部分が外れたようだ。中敷きとともに落ちてきたのは、紺色に菊文の描かれたパスポートだった。
「なんだ、パスポートだったんか。再発行したくなかったのか?」
「いえ…これ、母の形見なんです」
「えっ、そうだったのか」
鋭児郎の母ではないのに痛ましそうに見られる。だがそれでよかった。鋭児郎にとっても、シオンの母親はなぜか大事に思えるからだ。きっとそれは、シオンを大事に思っているからだろう。
鋭児郎は男性たちや担当者に深く礼をして、家に走った。
***
シオンは、だんだんと暗くなる外を見ながら鋭児郎の帰りを待っていた。義母はランニングか何かだと思っているようで、シオンは判断しかねるので訂正はしなかった。
あまり気にさせたくないというのは鋭児郎も同じだと言っていたからだ。
本当に見つかるのかとか、どうやって見つけるつもりなのかとか、いろいろなことをぐるぐと考えているうちに、すっかり外は暗くなった。
それからさらに時間が経って、義母も首を傾げる頃に、ようやく玄関の開く音がした。
思わずバッと扉を開けて廊下に出ると、鋭児郎が息を切らして立っている。その手にはリュックが握られ、もう片方の手にはパスポートがあった。
「え、いじろ…それ…」
「シオン!見つけた!これだろ!?」
見間違えようもなかった。リュックも、パスポートも、どちらもシオンが今まで心を寄せていたものだ。
どれだけ走ったのか、汗でぐっしょりとしており、タンクトップから晒される肩から手までボロボロに汚れている。もしかしたら、処理場で直接探してくれたのかもしれない。いくら臭いのそこまできつくない不燃ごみといえど、ゴミはゴミだ。そこまでして、シオンの大事なものを取り戻してくれた。シオンの心を、守ってくれたのだ。
思わず、シオンの目から涙があふれた。ぎょっとする鋭児郎に構わず、シオンはその体に抱き付く。靴を履いたままなので少し身長差がいつもより大きくなっている。汗も、さらに上がった体温も、まったく気にならない。
「シオンっ、俺汗やべぇしゴミん中手ぇ突っ込んだし…」
「そんなこと…っ!!」
肩に顔を埋めて背中に手を回す。あまりに強い気持ちにどうしたらいいか分からず、衝動的にこうしていた。
鋭児郎は少し慌てたあと、リュックなどを持ったままシオンのことを抱きしめ返した。
そして、パスポートだけをシオンの手に握らせる。
「ほら」
「あ、りがと…!」