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イベントごとが多いシーズンとは聞いていた2月だったが、結局この冬はもれなく受験に持っていかれたようだ。鋭児郎はどんどん気が張り詰めていったようなので、シオンも心配していたのだが、受験一週間前となるとさすがに義母に相談した。
「あの…」
「どうかした?」
「僕、鋭児郎の部屋じゃない方がいいんですかね…」
「あぁ…いいのよ、そんな気にしなくて。あの子はそれで気が散るほど、逆に器用じゃないわ。目の前のことしか見えていないから大丈夫よ」
義母はそんなことを言っていたが、同じ部屋にいるシオンとしてはやはり気になる。このままでいいのか、迷惑になっていないか。
母国にいる間は、決してこんな殊勝なことは考えなかっただろう。生きるために人の足を撃ちぬいたし、戦闘では多くを直接殺した。
そんな自分でも、こうして特別な存在となった鋭児郎が、受験が近いというだけでどうすればいいのか分からなくなる。
あのパスポートを全力で取り戻してくれた日から、鋭児郎はシオンにとってあまりに特別で大きい存在だ。命に並んで大切な母の思い出を、自らのことをいとわずに救けてくれた。
あの日、確かにシオンは救われたのだ。
だから、なるべくできることはすべてしたい。鋭児郎のためになりたかった。
しかし、ここ数年ずっと戦地にいたシオンには、どうすればいいのかなど分からない。
そこで、直接聞いてしまうことにした。
寝る前、鋭児郎がベッドに腰かけたところで、シオンはその足元に座って見上げる。
「鋭児郎」
「ん、どした?」
「…なんか、僕にできることない?邪魔なら別の部屋出るし、なんでも買いに行くし」
シオンが必死だったからか、鋭児郎は驚いたような顔をしたあと苦笑した。
そしてシオンの髪の毛をぐしゃぐしゃとして答えた。
「別に、んなことする必要ねぇよ。でもそうだなぁ、じゃあお願いしよっかなぁ」
「なんでも言って!!」
珍しく頼ろうとするような鋭児郎の言葉に前のめりになって先を促すと、突然ひょいっと抱き上げられた。何事かと思っていると、すぐにシオンはベッドの上で横になっていた。
そしてシオンの後ろ側には鋭児郎は横になり、後ろから抱き締められる状態で布団をかぶった。
「抱き枕役よろしく」
「え、いいけど…むしろ寝づらくない?」
「いや、めっちゃ癒される」
鋭児郎は本当にそう思っているようだ。
心地よさそうな声でそう言うと、ぎゅうぎゅうと抱き締められて、腹に回った筋肉質な腕が若干苦しい。
「こんなんでいいの…?」
「おう。あー、シオン可愛い〜」
ただシオンが抱き締められているだけで、鋭児郎のためというよりは、シオンが鋭児郎に抱き締められて落ち着くというか、安心して寝られるだけだ。
「でも、僕がホッとして落ち着いてたら鋭児郎が僕のためにしてくれてるみたいじゃ」
「ん、俺にこうされて落ち着くのか?」
「うん、すごく」
「そっか〜、マジで可愛いなぁ」
鋭児郎はそう言ってさらに抱き締める力を強くする。
とりあえず鋭児郎がもとめていることに変わりはない。シオンは言われるがまま、鋭児郎の抱き枕として一夜を過ごした。
その後も毎日、寝る前から鋭児郎に抱き締められて寝る日々が続いたのだった。