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そしてついに、受験の日となった。
やはり寒々しく、晴れ渡ってはいるもののそれが尚更寒さを感じさせた。義母たちも緊張しているが、鋭児郎も強張った顔をしている。義母と義父と3人で玄関に並び、鋭児郎を見送る。
「じゃ、いって、きます」
「いってらっしゃい!」
鋭児郎の硬い笑顔を見て、シオンはどうしようか迷ったが、閉められた扉を見てやはりいても経ってもいられなくなった。
いったん自室に戻ったシオンは、急いで目当てのものに文字を殴り書きちぎり取る。
そしてすぐに靴を突っかけて扉を開くと、まだ家の門を出てすぐのところにいた鋭児郎にすぐに追いついた。
「鋭児郎!」
「っ、シオン、」
やはりその表情はこわばっている。鋭児郎らしくないと言うには、もしかしたら時間的に浅いのかもしれない。だが、一番近いところで一緒に生活してきて、鋭児郎の本来の姿でないことくらいは分かるのだ。
「緊張してる、でしょ」
「あー…まぁ、そりゃぁな」
「これ」
シオンは持っていた少し硬い紙を鋭児郎の手に握らせた。そのまま両手を握りしめ、しっかりとその目を見据える。
「緊張するのは、それだけ頑張ってきたから。僕は、鋭児郎こそ、皆に必要とされるヒーローになれると思うよ。だから、信じて。自分のこと」
鋭児郎はシオンの言葉に一瞬虚を突かれたような顔をしたあと、柔らかく笑ってシオンのことを抱きしめた。またさらに逞しくなった鋭児郎の体は、やはりそれも努力の結果だ。
「ありがとな、シオン。頑張る」
「うん。気をつけて」
ニカリ、と鋭児郎はいつもの笑顔で笑うと、シオンを離し、いよいよ雄英へと向かっていった。
***
なくさないよう、と鋭児郎はシオンにもらった紙をとりあえずポケットに突っ込んでいた。
受験会場の巨大なホールに着くと、芦戸が目に入って一緒に席につく。数百人、いや千人以上の受験生でひしめく会場でプリントを受け取ると、プレゼントマイクのやかましい説明が始まる。
そして、鋭児郎は芦戸と分かれて更衣室に向かい、持ってきていたジャージに着替える。他にも男子たちが着替えている中で、ふと、制服のポケットに入れて置いた紙を思い出す。
それを取り出すと、硬い紙にはペンで文字が書かれていた。
『応えんしてる、がんばれ、鋭児郎』
まだ漢字が書けないようだが、なぜか鋭児郎という名前だけはしっかりと書かれている。きっと、鋭児郎の名前を真っ先に練習して覚えてくれたのだろう。そういう可愛いことを平気でするヤツだ。
その下には『Take it easy!』とも書かれていて、この英語の方はやたら綺麗なのでその違いにも少し笑ってしまう。どこまでもシオンらしかった。
そこで鋭児郎は、この紙の上部に目が留まる。印字されているからだ。その文字を見て、鋭児郎は息が止まった。
『査証―VISAS』という文字、これはパスポートの空港の入国管理などでスタンプを押してもらうページだ。つまり、パスポートのページの1枚を切り取ったということ。
効力のある現在のパスポートなわけがないため、これは効力を失ったシオン持参のものだ。かつてシオンの母が命懸けで発行し、シオンの苛酷な生活を支え、先日鋭児郎がゴミ処理場から何とか取り戻したあのパスポートだ。
それを切り取るということは、シオンにとって命のように大事なものの一部を鋭児郎のために渡してくれたということで。シオンの想いの強さを感じずにいられなかった。
不覚にも涙ぐみそうになり、というかちょっと目が潤んだ鋭児郎だったが、ぐっと堪える。
絶対受かる。ヒーローになるために、そしてこんなにも鋭児郎のことを思ってくれるシオンのためにも。
強く硬い決意は、鋭児郎の緊張を程良いものにしてくれた。あとは、ベストを尽くすのみだ。