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「ただいま」
夕方、鋭児郎が帰宅した。
玄関が開く音がした段階で廊下に出て駆け寄っていたシオンは、案外普通な顔をして帰って来た鋭児郎を出迎える。
「おかえり、怪我ない?」
「おー、ほとんど大丈夫だ!」
鋭児郎が靴を脱いで床に上がる。どうだった、と一言聞くことができない。聞いていいのか分からないのだ。そういうことを判断できない自分がもどかしく、嫌になる。
個性を使って尋ねるのも不誠実で嫌だった。
「あらあら鋭児郎!おかえり、どうだった!?」
そこへリビングからやって来た義母はあっけらかんと聞いた。母親だから、ということでいいのだろうか。
「あぁ、うん、ロボットの敵を倒す試験だったんだけど、ポイント制でさ。数えながらやった感じだと39ポイントは取った。それがたけーかは分からねぇ」
「そうなの…こればかりは結果待つしかないわね」
「そうだな」
「あ、いけない火かけたままだった。ほら、手洗ってらっしゃい」
義母は音が聞こえてくるキッチンに目を向けてから、パタパタとスリッパの音を立てながら戻っていった。
それにしても、高校生の入学試験でロボットを倒すというスケールの大きさに驚いた。ただの試験でそんなものを使うとは、こういうところにも先進国であり、かつ交戦権を否認するこの平和国家特有の特徴を感じる。
「ほんとに怪我ない?ロボットとか…僕はよく関節装甲に集中銃撃するか、歩行機能を地雷やロケット砲で喪失させてたけど、この国の子供は銃持たないんでしょ?」
「あー…まぁなー…」
自身の戦闘経験からロボット戦の苛酷さを課すことに引いていたシオンだったが、鋭児郎はシオンの言葉に反応しづらそうにしていた。そうだ、この国は20世紀の大戦から戦争を経験していないのだ、とシオンは遅ればせながら話題のギャップに気づいた。
シオンがとりなす前に、鋭児郎が「それより、」と話題を変えた。
「応援してくれてありがとな。すっげー、やる気出た。シオンの気持ちがめっちゃ伝わった」
鋭児郎が言うのは、シオンがあのパスポートのページを切り取って渡したメッセージだ。頑張って欲しい、というシオンの強い気持ちを、拙いシオンの日本語筆記能力で不足する分この紙に託した。きちんと伝わったようで良かった。
ちなみに、シオンは漢字が書けないだけで言葉は知っているし読める。
「うん。受験のことだけじゃなくて、これからもずっと、鋭児郎のこと応援したいから」
「そっか。あー、なんか、堪んねぇ気持ちだ」
そう言うと、鋭児郎は朝と同じようにシオンを抱きしめた。どうにも、気持ちの表現のしようがないときにくっつく傾向があるようだ。
「あ、そだ、個性使ってくんね?俺地頭良くねぇからさ、こういうときどう言えばいいのか分かんねぇし、分かっても言葉で伝わり切らねぇ気がして」
「え、うん」
シオンは言われるがまま、個性を使う。その途端、触れ合う鋭児郎から一気に感情が流れ込んできた。
どうやら更衣室らしきところで紙を見たのか、その映像とともに強い感情が伝わる。嬉しいとか、感動したとか、確かにそういう言葉では表せない。色々な気持ちが混ざって、ただ、胸が苦しくなるような、そんな感じだ。
そんな強い気持ちが自分に向けられているのだと思うと少し気恥ずかしくて、シオンは顔が赤くなる。
するとそれが鋭児郎にも伝わってしまったらしい、鋭児郎も急に顔を赤くした。
「…なんつか…うん、ちょっと恥ずかしいな」
「うん……でも、すごく嬉しい」
でも嫌なものではまったくなくて、シオンは自分から抱き締めてくる鋭児郎の首元に顔を埋めた。
その後、結果が届き、見事に鋭児郎は合格した。倒した敵のポイントだけでなく、秘密裏に救助ポイントという他の受験者に対する救援も点数化されていたようで、それを合算すると一般試験では2位合格らしい。
ヒーローになるという目標に向け、見事一歩前進した鋭児郎は、気合いをいれるということで、なんと髪を真っ赤に染め上げてワックスで思い切り立ち上がらせた。
いわゆるイメチェンというヤツだがよく似合っていて、短い春休みを経て、ついに鋭児郎は雄英高校での生活をスタートさせたのだった。