100%の共感
鋭児郎の雄英入学を間近に控えた4月初め、シオンと鋭児郎は日課となったランニングに出ていた。夕方の日が沈みつつある空の下、まだ肌寒い空気を感じながら2人で並んで走る。
もとはと言えば、鋭児郎が体作りのためにシオンに助言を求めたことに始まる。
ボクシングを見様見真似でやることで鍛えていた鋭児郎は、もちろん普通の筋トレやランニングもしていたのだが、やはり焦りはあったのだろう、合格発表以降にシオンに軍でしていたことを尋ねたのだ。
言葉で説明するのも面倒だったので、「とりあえずやってみよっか」と言って、今は2人でやるのが習慣となった。
スポーツ用のジャージを着て、まずは16時頃から町中を走り込む。距離はだいたい10キロちょっとだろうか。距離より時間で、30分は必ず走るようにしている。
河川敷や橋、公園など危険のないところに差し掛かると、シオンがおもむろに合図をし、それが聞こえたら一気に加速して全力で走る。そして再び合図したら元の速さに戻るというオプションもついている。やはり移動し続けるのが狙撃されないために必要であったし、スナイパーがいると分かったり、弾道弾が接近していることが分かったり、戦車やロボット兵が近くにいると分かったりしたらすぐに走ってその場を離れることもある。
そのため、基本訓練ではランニングにこういう急加速も加えていたのだ。
2人は街灯のともった公園に入り、直線の道に差し掛かる。そこでシオンが合図を出した。
「Run up!!!」
シオンの声が聞こえるや否や、鋭児郎と2人でだっと加速して街灯の間を全力で走る。本日8度目の急加速だ。シオンは内心で時間をカウントしていく。
そして10秒で「Slow down!」と合図し、元のランニングの速さに戻る。だいたい5秒、その速さで走ったところで、再び「Run up!!」と言って加速する。鋭児郎は驚いて一瞬遅れながらも、歯を食いしばってついてくる。
加速して10秒、戻って3秒、再度加速して20秒。
そのあたりで、公園の遊具でもある大き目の鉄棒にたどり着いた。
「Ready to chin-ups!」
「っ、マジか、」
軍の名残でつい英語ばかり使ってしまうシオンだが、そのあたりはもう鋭児郎も慣れた。これが懸垂を意味する言葉と理解しているので、この状態で鉄棒で懸垂することにそう漏らしていた。
2人で鉄棒にぶら下がると、それぞれのペースで懸垂を開始する。シオンがひょいひょいと体を持ち上げる一方で、早々に鋭児郎は息を切らした。それでも食らいつこうとするので、シオンはやめさせることにした。
「鋭児郎ストップ」
「、くそ、」
シオンがストップと言ったら必ずすぐにやめる、これは事前に約束したことだ。鋭児郎は悔し気に鉄棒から手を放す。
シオンも懸垂をやめて地面に降りると、鋭児郎は大きく呼吸をして息を整えながら芝生に足を放り投げて座った。たいしてシオンは普段より少し呼吸が大きいくらいだ。
「はぁ…はぁ…なんだあの、加速繰り返すヤツ…」
「何度も交差点を通るときは、数秒走ったらすぐに狙撃範囲になったりするからさ。ああいうこともやってた。きつかった?」
「きついに、決まってんだろ…!」
けろっとするシオンに鋭児郎はそうぼやく。
この訓練を始めたときもそうで、鋭児郎が悔しそうに「なんでそんな細いのにそんな体力も力もあんだよ!?」と大層驚いていた。直前に腕相撲で鋭児郎を一瞬で負かしたからだ。
そのときにも説明したが、こればかりは人種を理由にせざるを得ない。
基本的に、人種が混ざり合ってきた歴史のある地域であるほど腕っぷしは強い。そして、東アジアより西アジアや欧米の人種の方が骨格が強い。とりわけ、騎馬民族であるトルコ系とモンゴル系は世界的にも非常に強い。
例えば、人種が混ざって来たバルカン半島、アフガン、ベトナムなどは人種的に強く、ひとたびこの地域で戦争になると凄惨なものになる。サッカーのワールドカップで早々にアジア勢がいなくなるのも人種によるものだ。
そして、トルコ系もモンゴル系も、かつてユーラシア大陸を支配した民族である。
中央アジアは、無数の民族が入り混じり、しかもその大部分がトルコ系とモンゴル系であるため、非常にフィジカルが強いのだ。シオンの父もトルコ系とモンゴル系の血を引く。
だから、体の線こそ鋭児郎より細いシオンだが、力の強さも体力も、根本的な部分から違うのだ。それに加えてシオンは軍で戦争を経験しライフルや機関銃を扱ってきた。
単一民族国家で鎖国ばかりしてきた日本は戦争すらしていないため、そう意味では民族的に最弱の部類だ。しかしそれをカバーする圧倒的技術力と経済力が、世界第4位の陸上戦力を有するゆえんなのかもしれない。