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「…まっ、でも、ヒーローがこんな弱音吐いてちゃダメだよな!」


すると鋭児郎はそう言って立ち上がった。無理やり笑顔にしているのが分かる。きっと鋭児郎なら、このまま過ごせば立ち直れる。そういう強いメンタルをしているからだ。だが、シオンとしては、鋭児郎にそういう考え方をして欲しくなくて、合わせて立ち上がって視線を近づける。


「鋭児郎、なんでヒーローは弱音吐いちゃダメなの」

「なんでって…そりゃ、ヒーローは皆に頼られる強い存在だしな。弱音言ってるヤツに救けて欲しいとは思えねぇだろ」

「それは業務上の話でしょ。ヒーローは職業じゃん、業務外でもヒーローしてないといけないの」

「…?」


首を傾げる鋭児郎。その手を、シオンは両手で掴んだ。やはり鋭児郎の方が手が大きくて、シオンの手からは余ってしまう。


「…別に、僕の前でまで、いつでもヒーローでいなくてもいい。確かに、僕のパスポートを見つけてくれたとき、鋭児郎のことヒーローだなって思ったけど、あれは内面的な意味での話。職業としてのヒーローは、公共の場だけでいいんじゃないの」

「シオン……」

「…僕の前でくらい、弱音でもなんでも言えばいい…」


鋭児郎の赤い瞳を見上げると、その目はハッとしたように見開かれる。そして、どこか嬉しそうに細められた。


「…さんきゅ、シオン」


そう言って、鋭児郎は正面からシオンを抱き締めた。いつもの感情表現だ。染めた赤い髪がすぐ近くに見えて、普段の鋭児郎の匂いにワックスの匂いが追加されていた。


「あー…くそ、なんかマジ悔しい。やるせねぇタイプの悔しさだ」

「やるせない?」

「シオンとの人種の違いとか、A組のヤツらとの個性の違いとか。持って生まれたモンはどうしようもねぇじゃん?そういうこと」


生来の部分はどうしても変えられない。たくさんの努力をしている自覚があり、事実している鋭児郎だからこそ、その差をよりダイレクトに感じてしまうのだろう。


「ね、個性使っていい?」

「?あぁ…」


許可を得て、エンパスを使用する。途端に鋭児郎の感情が流れ込んできた。悔しさ、やるせなさ、追いつけない、超えられない高い壁への虚無感にも近い諦観。だが諦めたくないというプライド。
様々な複雑な感情がもつれ合っていた。


「…確かに、嫌な感じする」

「わり、嫌だったよな」

「ううん、嫌だけど嫌じゃないよ。鋭児郎と同じ気持ちになれてるから」


今、シオンは鋭児郎とまったく同じ感情を共有している。それは、異なる人生を歩んできた2人では本来できないか、限界のあることのはずだった。


「もし僕が鋭児郎と同じテスト受けたら全然できないと思う。でもね、まったく悔しくない。だって、僕は鋭児郎に世界で一番共感できるから。人は他人の気持ちを推測できても絶対完全に一致させられないし、共感には限界がある。でも僕は、この個性のおかげで、鋭児郎とまったく同じ気持ちになれるんだよ」


ぎゅう、と目の前の肩に顔を押し付けるように抱き付く。ゼロ距離を更に縮めようというように。なるべくたくさんの感情が互いに伝わる様に。シオンは最近操れるようになった自分の感情の伝達を意図的に行い、自分の気持ちを鋭児郎に伝えた。


「っ、シオン…!」

「だからさ、鋭児郎、1人じゃないよ。どんなにつらい気持ちも悲しいことも、僕が全部共感できる。鋭児郎1人で抱え込む必要はない。だから、弱音くらい、いつでも言ってよ。僕の前では、ヒーローってよりただの鋭児郎なんだから」


シオンはこの個性で良かったと思っているし、鋭児郎と100%心を通わせられることが心から嬉しい。その気持ちは鋭児郎にも伝わって、鋭児郎もぐっと強く抱きしめてくる。
同時に、鋭児郎の気持ちもどんどん変わっていく。マイナスな感情から、喜びや嬉しさにだ。
だんだんそれは、胸が締め付けられるような、心臓のあたりがきゅう、とするような、そんなものにもなっていく。ドキドキとするようにも感じられるそれは、今までと少し異質な気もしたけれど、まったく悪いものには感じられなかった。


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